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現実か幻想か 【パンズ・ラビリンス】 [映画日記<2007年>]

「パンズ・ラビリンス」を見たよ!

公開し始めたばかり。
ばっちりネタバレしているので、ご注意を。

1944年、スペイン。
内線は終結したものの、ゲリラは山中に潜み、それを鎮圧する為に、ビダル大尉(セルジ・ロペス)が駐屯していた。
そんな山へ向かう親子。
カルメン(アリアドナ・ヒル)は臨月を向かえ、再婚したビダル大尉の元に向かっていた。
隣には、前夫との間の子オフェリア(イバナ・パケロ)。
臨月の母は体調が悪く、道中、車を止めた間、オフェリアは古い石像を目にする。
足元の落ちていた石の欠片を石像に埋め込むと、そこからカマキリに似た昆虫が飛び出すのを見ていた。
一方、冷酷な軍人のビダル大尉を新しい父として愛する事のできないオフェリア。
彼女は大尉の身の回りの世話をするメルセデス(マリベル・ベルドゥ)から、駐屯地のすぐ側に、古い迷宮~ラビリンス~があるのを教えてもらう。
相変わらず体調の悪い母、一緒に寝ているオフェリアの前に、石像から飛び出した昆虫が現れ、オフェリアに話しかけているらしい。
その昆虫に誘われるまま、オフェリアは古いラビリンスに入り込む。
そこでオフェリアを待っていたのは、山羊の頭の二本足で歩く大きな生き物、“パン”だった。
パン(ダグ・ジョーンズ)はオフェリアに言う。
昔より地中には王国が存在し、オフェリアはその国の王女の生まれ変わりだと。
これから3つの試練に合格すれば、父母が待つ王国へ帰れる。
また王女に戻れる。
パンを信じたオフェリアは、進むべき道を標してくれる本を手に、試練に挑む。
果たして、パンの語るラビリンスとは、
そして、オフェリアは3つ試練に耐え、王女に戻れるのだうか・・・

悲しくて悲しくて、そして美しい物語でした。

ファンタジーでありながら、この物語の半分は現実。
1944年と言えば第2次世界大戦中、ファシズムが横行するスペイン。
内戦は将軍の勝利で終結したものの、ゲリラは山に潜み、まだ血を伴う戦いは続いていた。
そんなゲリラを討伐する大尉の下に、オフェリアが再婚した母と共にやってくる場面から、この物語ははじまる。
母の再婚、妊娠と、おめでたいのかと思うと、そうじゃない事はすぐに分かる。
母子を送迎しているのは、ドイツのナチのような征服を着た軍人で、義父はニコリともしない根っからの軍人。
おとぎ話が好きで、本を持ち歩くような少女が受け入れられるような父親ではない。
しかも、すぐ側で戦いは起き、人が簡単に殺される。
そんな環境にオフェリアの表情はいつも暗い。

ダーク・ファンタジーと知っていたので、オフェリアが魔法の国に入ってしまえば、ずっと試練とやらをこなしていく物語なのかと思っていた。
でも、違ったね。
半分は、オフェリアの本当の現実。
冷酷な父、体調の悪い母、軍人とゲリラの戦い。
そんな中でパンと出会い、オフェリアは少しだけ魔法の国に関わる。
一つ試練を達成したら、また元の現実に戻り、
そして、また次の試練に立ち向かう。
ファンタジーの世界は、実はほんの少し。
大部分は、現実世界の悲しみに表情の暗いオフェリアと、弱い母、
そしてゲリラのスパイでもあるメルセデスの、綱渡りな生活なの。

先に書いておくと、
ダーク・ファンタジーの世界は、暗く、そして美しい。
出てくる生き物も、みなどこかいびつで、醜いのだけど、なんとも強烈な印象が残る。
パンは、少しおどけた道化師のようでもある。
頭が山羊なので、悪魔の象徴じゃないか、とも思うのだけど、そういうはっきりとした暗示はなくて、やはりオフェリアに試練を提示する、案内人の役目。
オフェリアの味方ですらある。
側に飛んでいる妖精たちも、オフェリアの味方。
醜いものと美しいものが同居するこの世界は、混沌としているようで、静寂の世界のようで、何か不安で曖昧な気持ちになる。
オフェリアは、王女に戻る為に、時に泥だらけにならながらも、健気に試練に挑んでいく。
王女になる・・・
おとぎ話が好きな、10代初めの女の子、ましてや外の世界は暴力に満ちている、ともなれば、王女という言葉は、何ものにも替えがたい、魅力的な言葉なのかもしれないね。

最初の試練は、古い大木の下にいるカエルの口の中に魔法の石を入れ、カギを持ってくる事。
ドレスを汚してしまった事は母に怒られてしまうが、オフェリアは一つ目の試練に合格できて、嬉しそう。

母の体調を戻す為に、パンからマンドラゴラ(マンドレイク)の根をもらい、言われたとおりにすると、母は少しずつ回復しているよう。
ちなみに、マンドレイクの根は、「ハリー・ポッター」にも出てくる、人の形をした植物の根。
「ハリー・ポッター」では、確か石にされてしまったハーマイオニーを元に戻す薬を作る原料だったと思う。

二つ目の試練は、砂時計が終わる前に、あるものを取ってくる事。
そこでは何も食べてはならず、何も飲んではいけない。
オフェリアは、美しい短刀を手に入れる事には成功するが、なぜかブドウを2粒食べてしまう。
それが見つかり、危ういところを、やっと現実世界に戻ったのだった。
しかし、パンに知れてしまうと、パンは愛想をつかし、オフェリアを見放してしまう。
すると、現実世界では悪い事が続き、
母は弟を産んで死亡、
メルセデスの弟はゲリラだったが、大尉に捕まり、拷問の末、母の主治医の手によって、死亡。
この主治医もゲリラに通じており、バレてしまうと、大尉に射殺されてしまう。
メルセデスはなんとか逃げたし、ゲリラのよって救われる。
一人ぼっちになってしまったオフェリアの元に、再びパンが姿を現し、最後のチャンスをくれるという。
それは、弟を連れ出し、ラビリンスに来る事。
質問はなし。
大尉に追われながらも、ラビリンスに入るオフェリア。
腕の中には、何もしらない弟。
パンは言う。
弟の穢れなき血を捧げるのが、最後の試練。
オフェリアは、有無もなく、それを断る。
弟を傷つける事など、オフェリアには、決してできる事ではなかったからだ。
本当に良いのか、と問うパン。
オフェリアが答えると、パンは消えていった。
そして、そこには、オフェリアに追いついた大尉。
相手が子供だろうと、大尉が慈悲を見せるはずもなく、大尉の拳銃の引き金は引かれてしまう。

そこで、冒頭のシーンの意味が分かる作りになっている。
もしかしたら、と、冒頭でも気づいてはいたのだけど、
手を血に染め、朦朧とした表情のオフェリアが、女性の声の美しいメロディを聞いていたのは、
それは、ラビリンスの入り口に、銃弾に倒れたオフェリアが聞いていた、メルセデスの声。

オフェリアの手から滴る血は、地の底の王国に届き、そしてオフェリアはついにラビリンスの向こう、
魔法の国の王女として迎えられる。
荘厳なイスに、父と母が座っており、パンもいて、妖精たちもいる。
現実のオフェリアの目から光が消える時、魔法の国で、オフェリアは微笑む。
こうにしかならなかったのか、と思う反面、こうにしかならなかったのだろう、とも思う。
少女が夢見た王国は、果たしてそこにあったのか、
オフェリアが現実逃避したくて、頭の中に作り出した妄想だったのか、それは誰にも分からない。
答えもいらない。
きっと、つらい現実に生きる少女の出した答えなのだと思うよ。

一つすごく気になるのは、
2つ目の試練の時、オフェリアはどうしてブドウを食べてしまったのか、という事。
あれはなんなのだろう。
禁断のリンゴは、どうしても食べたくなるものだけど、
あれほど素直で聡明なオフェリアが、あの時ばかりはなぜブドウをガマンできなかったのか。
あの後、マンドラゴアも見つかり、母も亡くなり、外の状況も悪くなり、
あの時、もしオフェリアがガマンして、何も口にせず戻れていたら、どうなっていただろうと、どうしても考えちゃう。
考え出すと、素直に見ていた事が、いろいろ疑問に変わってしまうのよ。
果たしてパンは、何者だったのか、とかね。
実は、オフェリアを、死という安息の世界に導く為の生き物だったのか、
安息ではなく、死に至らしめる悪魔的な存在だったのか、
オフェリアは、もしかしたら現実から逃れたくて、自ら死を選んだのか、とか、疑問は尽きない。

オフェリアを演じたイバナちゃんは、暗い表情が似合う。
その暗い表情から、一瞬だけ笑うと、印象が深くなるの。
映像美の部分で評価されたみたいだけど、
それより、強烈だったのは、やはりオフェリアの死と王国との関係だな。
現実世界と、幻想世界の関係と言ってもいいかも。
自由に生きる為には、死しかなかったのか、
考えていたら、悲しくなったよ。
充実した気分で見終わったけど、精神的にはあまり良くないかもね。

現実世界のでの、暴力のシーンがかなりリアリティがあってエグいから、PG-12なのもうなずける。
いわゆるファンタジー映画を想像していると、アッパー食らうよ。
でも、娯楽ファンタジーより、何倍も残るものがある。
そこを評価したい。
カワイイクリーチャーがいないってのも、媚を売っていなくていいし、
あからさまな正義や希望がないのもいい。
鬱っ気のある人は、悪化させてしまいそうな気もするけど、興味がある方は、是非、見て下さいね。
私は、泣きましたよ。ええ、確かに。


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堀越ヨッシー

早速見に行かれたのですね!。
実はオイラも土曜日に見に行こうかな?と思っていたんですが、調べたら思ったより上映館数が少なかったんですよね。オイラ的に一番近いのは恵比寿...かな?。やっぱりちと遠い...。
パンをはじめ、いろんなクリーチャーが出てくるみたいでそれを見てみたいです。ギレルモ・デル・トロ監督は独特の映像センスを持っているので、そのへんも興味をそそられます。
でも、やっぱりレンタル待ちになりそう...(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2007-10-14 19:45) 

Catcat44

ヨッシーさん、こんばんわ!
気になっていた作品なので、早速行ってしまいました。
単館ではないですが、少ないですね。私は運よくさいたま新都心で見れましたが。
パンの山羊足がサイコーにクールでした。細かいところですが(笑)
ギレルモ・デル・トロ監督は、「ヘル・ボーイ」が好きだったので、なるほど~と思って見てました。
パンを演じた人は、「ファンタスティック・フォー/銀河の危機」で、シルバー・サーファーを演じた人なのですよ!
いろいろトリビアも楽しいですね~。
by Catcat44 (2007-10-14 21:00) 

うつぼ

こんばんは!
LICCAさんの記事だけ読んでも涙腺が緩んでます。
涙もろさでいえば、LICCAさんには勝てるはず。。(笑)
ファンタジーかと思いきや現実味を帯びた内容もあり、、、これは見たいです。上映館が少ないのはちょっと、、、ですね。私がいけるのは有楽町あたりかな。
by うつぼ (2007-10-14 21:20) 

Catcat44

うつぼさん、こんばんわ!
是非、映画館で思いっきり泣いて下さい~。。。絶対、泣くはず。。。
上映館が少ないのは、もったいない作品ですよ。思春期に見たら影響されすぎちゃうかもしれませんが、分別ある(笑)大人が見れば、思うところがたくさんあり、考えさせられます。是非~。
by Catcat44 (2007-10-14 22:14) 

non_0101

こんばんは。ようやく観てきました!
現実が悪夢のように辛いのに、ファンタジーの部分も辛くて、怖さ倍増でした~
お父さんがあんなに怖い人とは(T_T)
しかも、試練があんなに辛いとは(T_T)
> 現実のオフェリアの目から光が消える時、魔法の国で、オフェリアは微笑む。
現実の肉体を持っていかないところがびっくりでした!
本当にシビアなファンタジーでした。
by non_0101 (2007-11-24 02:18) 

Catcat44

nonさん、こんにちわ!
まさか父親が、子供を殺しはしないだろう、というちょっとした先入観があったので、引き金を引いた時は、ショックでした。
シビアでしたね。現実も魔法の世界でも。
ダーク・ファンタジーの言葉がぴったりだと思いました。
子供が見たら、怖いでしょうね~。大人が見ても、怖いのですから~。
by Catcat44 (2007-11-24 15:24) 

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