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その男、CIA・・・ 【グッド・シェパード】 [映画日記<2007年>]

「グッド・シェパード」を見たよ!

1961年。
CIAのベテラン諜報員エドワード・ウィルソン(マット・デイモン)の元に、1本のテープと1葉の写真が送られてきた。
それはどこだか分からぬ一室で、男女が情事に及んだ際、交わした会話。
折りしも、キューバのカストロ政権を倒す目的で、アメリカの支援を受けた一団が、ビッグス湾に上陸を図ったが、CIA内部からの情報漏れが原因で失敗に終わり、エドワードは窮地に立たされているところであった。
テープと写真の分析を、部下に急がせるエドワード。
エドワードが諜報員の道に足を踏み入れたのは、まだイエール大学在学中の事だった。
エリート学生の秘密結社であるスカル&ボーンズの一員となり、その集会の折、諜報員としてのスカウトを受けたのだった。
耳の不自由なローラとの出会い、
友人の妹との一度きりの過ちが、後に責任を取る形で家族となり、
そして、息子もまた、CIAの一員となる道を選ぶ。
一人の男が歩んできた道、CIAと家族、世界大戦と米ソ冷戦。
テープと写真の謎が解けると、エドワード・ウィルソンは、一つの選択を迫られる事になる・・・

監督はロバート・デ・ニーロ、
主演はマット・デイモン、
共演にアンジェリーナ・ジョリー、
ものすごく豪華な面々。
でも、作品自体は、ものすごく静かに進み、一人の男が選んだ人生だけが、時を刻む秒針のように確実に進んでゆくだけ。

ストーリー構成は、エドワードの現在に、過去が挿入されつつ、現在に近づいていく流れ。
スクリーンに何年と表示されるのだけど、いつの間にか、過去だか現在だか、分からなくなっていたな。

えぇ、この作品、非常に地味です。
本当に地味です。
マット・デイモンが、とにかくCIAに人生の全てを捧げたエドワード・ウィルソンという男を、淡々と演じている。
またエドワードが、感情が顔にでる人間ではないのだよ。
ともすると、常に無表情のエドワード。
妻といても、息子といても、ほんの少しだけ表情を緩める事はあっても、大きく表情が崩れる事がない。
しかも、仕事の事は、家族には一切秘密。
そしてCIAでは、優秀な諜報員。
エドワード・ウィルソンという人間を冷静に分析すれば、やはり家族を犠牲にした、仕事人間、という事になるのだろうか。

正直、見ていてなかなか難しい作品だったと思う。
CIAの事も詳しい訳ではないし、ましてや米ソ冷戦時代の事情もよく知らない。
アクションがあってばんばんストーリーが進んでいくような作品じゃないし、
騙し騙され、ハラハラドキドキ、なんて事もない。
エドワード・ウィルソンという男の人生を追いながら、
CIAの誕生物語を見せられている、というより、エドワード・ウィルソン自身が、まるでCIAそのもののようだよ。

ストーリーに目立った起伏もない為、ともすると平坦なつまらない物語になりそうなのだけど、
そこまでそう感じなかったのは、ひとえに主演のマット・デイモンのおかげだと思う。
彼の顔と雰囲気が、なんとなく人間味が感じられるというか、血が通った人間に見えたのだから、やはり彼の功績なんじゃないかな。

エドワード・ウィルソンという男は、流れに流されているように見えて、
実はちゃんと自分で道を選んでいるのだと思う。
エリート集団のスカル&ボーンズなんて秘密結社は、いかにも戦前のアメリカだけど、
諜報員になったのも、彼自身の選択。
一度の過ちで、友人の妹クローバー(アンジェリーナ・ジョリー)を妊娠させてしまったのは偶然だろうけど、
それでも彼は、家庭を築いていくのだよね。
結婚式から1週間で、妊婦の妻を置いてイギリスに赴任し、
実に6年も会わないなんて、本来ならとっくに二人の関係が終わっていても良さそうなものだ。
時代が時代だからかもしれないけど、一度の過ちで結婚した夫婦が、その後すぐに6年も会わなくて、
それでいても20年余りもその後、夫婦生活が続けられたのは、エドワード・ウィルソンとは何者だろうかね。
妻には、最後まで寂しい思いをさせたエドワードだけけど、
一人息子にだけは、父親それらしい人物にはなろうと努力していたようだね。
仕事の関する一切を秘密にしたまま、20年以上も家族でいるなんて、妻のクローバーはどれほど寂しかったのか、ストーリーがエドワードの仕事の部分を中心に進むので、妻子や家庭の描き方があっさり気味だったのが残念だな。
まぁ、妻クローバーの心情にスポットを当てたら、もう一つ、別の物語ができてしまうだろうけど。
「誰も信用するな」それを信条に仕事に徹するエドワードが、
家庭に戻ったら戻ったで、明るい家庭人になってしまったら、それの方がウソくさいけど、
家庭と仕事と、
例えば、ソ連のスパイかどうかを、尋問というより拷問に近いやり方で責めている部下を、ツーウェイミラーのこちらから見ているエドワード。
でもその夜には、妻と子が待つ家へ帰ると、父親であるエドワード。
このギャップが違和感であり、彼が人間である証拠であり、
つい、淡々としたストーリーながら惹かれたのは、そういうところかもしれないね。

エドワードは、結局妻になったクローバーを、どれほど愛していたのか、疑問だわ。
何故なら、大学時代、明らかに彼が愛していたのは、耳の不自由なローラだったから。
ローラの前では、彼は表情が和み、時折、優しい微笑みさえ見せていたのに。
ローラと結ばれなかったのは、クローバーが妊娠した為。
もちろん、エドワードの行為の結果。
でも、ローラの前で見せた微笑みは、クローバーの前で見せる表情とは違っていたのだろうな。
言い争いの果てに、エドワードはクローバーの前で、結婚したのは息子の為だと、つい口にしてしまう。
それが後押しし、クローバーは母と住むといって、エドワードとは別居を決意する。
CIA諜報員の妻なんて、行き着く先はこんなものなんだろうかね。
ちょっとクローバーがいたたまれなかった。

いつしか息子も成人し、ベテラン諜報員としての地位を確立したエドワードが直面するのは、
エドワードの人生で、とびっきりのピンチ。
キューバでの作戦失敗が意味する、CIA内部からの情報漏えいが、
実は自分の息子の仕業である事に、エドワードは気づく。
あの送れられてきたテープと写真の人物は、
なんと彼の息子、エドワード・ジュニアと、
彼が愛した女性、それはスパイに相違なかったのだ。
父親としてのエドワードと、CIA諜報員としてのエドワード。
彼の選択は、多分、それしかなかったのだと思うよ。
ずっと敵対してきたソ連、その有能な諜報員ユリシーズは、エドワードにどちらも選びがたい二者選択を迫る。
エドワードにテープと写真を送ったのは、かのユリシーズ。
ジュニアが消えるか、エドワード自身がCIAを裏切るか。
どちらも選べなかったエドワードは、花嫁となるべき、ジョニアの愛した女性に、かの地を踏ませなかった。
移動中のプロペラ機から、突然突き落とされる花嫁。
ジャングルに消えていく女性の姿が、何か人に見えず、でも人なんだと思えた時、エドワードがすこし怖くなった。
お前を守る為・・・
事態を察し、泣く息子抱きしめるエドワードが、初めて父親に見えた瞬間かもしれない。
一人の人間を、命令で抹殺する事ができる男が、息子を抱きしめる。
なんだか無性に、虚しくなったわ。

真新しいCIA本部に立つエドワード。
彼に残されたのは、CIAの仕事だけ。
最初っから、彼にはそれが似合っていたのだと思う。
それが、若さ故、人を愛し、家庭を持ち、父親になり、
結局は一人の寂しい仕事人間に戻るのだね。
思うのだけど、
この作品の良かったところは、キャスティングの妙だと思うんだ。
エドワード・ウィルソンに、マット・デイモンをキャストした人は、もしかしたら一番の功労者かもしれないよ。
だって、彼じゃなかったら、きっと長くてつまらない作品になっていたかもしれないもの。
2時間半以上ある上映時間は、はっきりいって長すぎる。
ストーリーに起伏もないし、クライマックスも分かりづらい。
喜びも悲しみもなく、なんとなく侘しさが漂うラスト。
それでも、集中してむしろ夢中になって見れたのは、キャストのおかげな気がしてならない。
違うかなぁ。
違わないと思うのだけど。

見ようと思ってらっしゃる方がいたら、少しだけ予習しておいた方が良いかも。
途中、登場人物が増えてくると、誰が誰だか、分からなくなったから。
分からなくなっても、それほどストーリーに支障をきたすものでもないから、落ち着いて見ていられるけどね。
マット・デイモンとアンジェリーナ・ジョリーが夫婦というところに、どうしても違和感があって最後まで消えなかったのは事実なんだけど、マット・デイモンは童顔だし、逆にアンジェリーナ・ジョリーは老け顔だし、まぁそれも、それほど気にしなければいい事で、絶対お薦めな訳ではないのだけど、見てみるのは悪くないよ、と言っておくわ。
のほほんB級映画も、パンパカアクション映画も好きだけど、
たまにはこんな渋すぎる作品も良いかもね。
マット・デイモンっていい役者だよ。
この作品見て、あらためてそう思ったわ。


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コメント 8

こんばんは!
マット・デイモン、昨日スマスマに出てるのを見ましたが、若い頃と感じが全然変わりましたね。昔は、もっと線が細い感じがしましたし、「あんな顔だったっけ?」と思いました(私だけ??)

この映画、”というより、エドワード・ウィルソン自身が、まるでCIAそのもののようだよ。” というのがこの映画の雰囲気を物語っていそう、と思いました。ちょっともやもや系なのかもしれませんね。DVDになったら見てみたいと思います。
 
by (2007-10-30 22:21) 

Catcat44

再び、こんばんわ~。
マット・デイモン、マスマスに出た事、今日知りました。「グッドウィル・ハンティング」の頃は、まさに子供って感じだったように思います。
でも、今でも、童顔ですよね(笑)
この作品、重い、暗い、地味、とあまりいい言葉が浮かばないのですが、でも何か見続けてしまう魅力がありました。レンタルになりましたら、是非見てみて下さい。感想も聞きたいです。
by Catcat44 (2007-10-30 23:04) 

うつぼ

こんばんは♪
この映画、観ようかどうしようか迷ったまま。。予告編を見た時、マット・デイモンよりもガリガリのアンジェリーナ・ジョリーに「拒食症の噂って本当?」と本筋と違うところに目が行ってしまったので。。。。
結構上映時間が長いんですよね。ただ、大画面で見るとズッシリきそうで1人でじっくり見るにはよさそうですね。。。ってまだ迷ってる。(笑)
by うつぼ (2007-10-31 22:38) 

Catcat44

うつぼさん、こんばんわ!
アンジーは後で知って、あぁホントだ~、と気づいた鈍感者です。
上映時間、長いですね~。長すぎですね~。私は結構のめりこんで見ていたので、2時間40分もある感覚はなかったのですけど、なにせずーっと単調な感じなので、真ん中あたりはほえ~ってなるかもしれません。
胸張って薦められないのですが・・・でも決して悪い作品じゃないです。
また、迷ってしまいますね。
by Catcat44 (2007-10-31 23:23) 

collet

LICCAさん、はじめまして~
わたしもこの映画、見ました!そして、今、感想をアップしたとこです~ 
マット・ディモン、おっしゃる通り、いい役者です!
それとわたしも書きましたが、脇役の登場人物の区別がつかなくて・・・
一人一人、名前を言ってほしかったですね~ 
まあ、無理でしょうが・・・(~_~;)

映画のお話がイッパイですね!また、お邪魔させてくださいね~
by collet (2007-11-01 16:05) 

Catcat44

colletさん、こんばんわ&はじめまして!
マット・デイモンいい役者ですね。元々、ボーンシリーズで知った訳ですが、アクションが似合うと思ってましたが、シリアスな演技も良かったですよね。多才なのでしょう。
途中、誰が誰だか、よく分からなくなりました。でも、結局のところ、あまり支障がなかったので、まぁいいかっで済みました(笑)
映画好きなのですが、最近はごった煮状態のブログですが、こんなところで良ければ、遊びに来て下さい~。
by Catcat44 (2007-11-01 22:08) 

non_0101

LICCAさんへ
こんばんは!私もようやく観てきました!
> 家族を犠牲にした、仕事人間
家に仕事を持ち込むと、家庭は厳しいですよね。ましてやCIAなんて…
奥さんは本当に気の毒でした。
それにしても長さを覚悟してたのですけど、あまり気にならなかったです!
マット・デイモンをはじめ、いい役者さんが揃っているからでしょうかね~
DVDが出たら、またじっくり観てみたいです(^^ゞ
by non_0101 (2007-11-11 00:50) 

Catcat44

nonさん、こんにちわ!
そうなんですよ。思っていたより、長さが気にならなかったのは、俳優陣の上手さとかなんだろうなぁと思いました。
アンジーはちょっと派手目でしたが、妻の苦悩が伝わって、痛かったですね。
深い見ごたえのあるドラマでした~。
by Catcat44 (2007-11-11 15:58) 

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