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似て非なるもの 【インセプション】 [映画日記<2010年>]

「インセプション」を見たよ!

他人の夢に入り、アイディアを盗み出す。
そんな能力に長けたドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、産業スパイの世界では名の知れた犯罪者で、ゆえに祖国アメリカに二人の子供を残したまま、帰国は叶わない身の上だった。
ライバル企業の依頼で、巨大な富と権力を持つサイトー(渡辺謙)の夢に入り込んでいたドムは、サイトーに侵入を気づかれ、作戦は失敗。
仕事を依頼してきた企業にも狙われる事になり、彼は追い込まれていた。
そこへサイトーはコブに、ある依頼を成功させたら、祖国へ帰れるようにしてやる、と、仕事を持ちかける。
それは、通常、アイディアを盗む仕事を常とするコブだったが、サイトーが依頼をしてきたのは、ライバル企業の御曹司に、あるイメージを植えつける事、“インセプション”だった。
この仕事を最後に、足を洗う決心をするコブ。
いまだかつて前例のない“インセプション”を成功させる為、コブは最高のチームを組む。
果たして、コブは仕事を成功させ、子供の待つアメリカへ帰る事はできるのだろうか・・・。

久しぶりに、期待に応えてくれた作品を見た気がする。

難しいと言われているこの「インセプション」の設定。
実は、きちんとセリフを聞いて、スクリーンを見ていれば、必要な事は全て説明してくれているから、それほど迷う事もないのじゃないかと思う。
確かに、分かりづらいところもある。
元々、クリストファー・ノーラン監督って、「メメント」もそうだけど、時間軸がズレていたり、複雑な設定がお好きなよう。
一番分かりづらいのは、きっと夢が何階層にもなっているところだと思う。
起きているところから、まず夢の第1階層に入る。
そして、そこから第2階層へ。
さらには第3階層へ、といった具合いにね。
そして、階層が深くなるほど、時間はゆっくりと進み、起きている時の1分が、第3階層までくると、実に何十年にもなる、というところを押さえておけば、まず分からなくなる事はないと思うな。

それと、あくまで夢の中であれば、そこで死んでしまってもただ起きるだけって事もね。

この複雑に作られている設定のせいで、こちらばかりが注目されているけど、この映画の本質は、ドム・コブという男の、再生物語にある。
妻を亡くし、しかもその妻殺しの容疑までかけられた男が、妻の幻影からついには逃れ、新しい道を歩き出すってところが、ストーリーの中心。
サイトーの依頼の元、“インセプション”を成功されるのもこのストーリーの軸ではあるけど、それはあくまでストーリーの進行の部分で、本質はコブの内面にあるのだな。

死んだ妻に未練たらたらで、会えない子供たちに執着し、人生を見誤る寸前の男を、レオナルド・ディカプリオがまたドロドロと演じていて、女々しい男も意外としっくりくるかも。
彼は最後の最後まで、妻の幻影と、現実と、どちらを取るのか決めかねていて、なんともハラハラさせられる。
女々しい男が女々しくもドロドロと夢の世界にハマってゆくのかと思いきや、最後はちゃんと現実に戻ってきてくれて、それはスッキリさせてくれなきゃ、ってね。
ただ、言ってしまうと、最後のシーンは、コブの選択が、夢か現実か、どちちらだったのか分からないようになっている。
でも私は、あれは現実の世界だったのだと思いたいな。
じゃなきゃ、コブという男は、どうしようもない男に思えて。

夢が幾重にも深い階層になっているという設定は、とても面白い。
そのたびに、次の階層に行く準備をして、それって感じで、みんなで潜っていくのは、なんだか楽しい。
時間の流れが違うから、深い階層ではいろんな出来事が起こるのに、上の階層ではほとんど時間が経っていない、というのを、シーンを並べて見せてくれるので、比べやすいし、その感覚がなんとなく快感。

しかも夢の中の世界は、あくまでイメージの世界だから、なんでもアリというところが、実に映画向きでいいじゃない。
非現実な事も、実に現実らしい。
そして、意外と単純な法則なのだけど、現実世界で本人が揺れたら、夢の世界も同じように揺れる、というギャグのような描写が、それこそコメディかギャグのようで、良いよ。
現実では寝ているだけなのに、ぐらぐら揺れると、夢の世界は、もうぐるぐるぐるぐる世界は回る~、みたいなね。

それをCGでなく、実際にセットをぐるぐる回しちゃったところに、この作品の妙なリアリティがあるのね。
夢の世界なのに、妙なリアリティがある。
それが逆に良い効果。
夢が夢らしい非現実的な映像であったら、当たり前すぎてダメだったかも。
それこそ、ファンタジーかSFの世界。
でもノーラン監督の夢の世界は、とても現実らしい。
なんとなくセットが回っている、とか、ワイヤーで吊られているとか、分かりそうな感じが、いいのよ。
人に質感や重みが感じられてね。

コブがチームを組んだ事も、ヒーローものっぽくて、エンターテイメント向き。
コブが一人黙々とやるよりは、RPGみたいにそれぞれ役があって、その役に合う個性があって良い。
わざわざ設計者を分ける必要があるのか、よく分からなかったけど、実行部隊はいるからな。
サイトーも、夢の中ではただの監視者だし。

しかも決して善のヒーローではないのだよね。
でも、実はみんなして犯罪を犯しているのに、誰も罪悪感を感じていないところがミソな気がする。
そこのところはみなあっけらかんとしているのよね。
コブだって、犯罪だって分かってやってるし、犯罪者の仲間にするのに、わざわざ義父のところに仲間を紹介してもらいに行ったり。
サイトーにしても、金と権力にものを言わせて、ライバル会社をつぶそうとしているだけ。
可哀想に、今回、サイトーのターゲットにされてしまったライバル会社の御曹司は、コブが組んだ最高のチームによって、夢を荒らされたあげく、欲しくもなかったイメージをもらってしまうのだから、たまったもんじゃないよね。
しかもほとんどは、コブのチームが作り上げた、ウソのイメージなのだから。

それと、妻の幻影にうじうじと悩むコブとのギャップが、なんだか面白かったんじゃないかと思うな。

シーンが階層ごとにくるくるよく変わるので、だんだん本来の目的、サイトーのライバル会社の御曹司にあるイメージを植え込む、という事のミッションが、忘れそうになるのは阻止した方が良いな。
階層ごとに、その役割が先へ先へ進むのに、手前の階層にシーンが戻ると、前段階の為のシーンだから、目的も戻ってしまって、やや混乱しかねない。
それぞれの階層が、次の階層の為に動いているから、それを忘れなかったらバッチリだよ。

せっかくなので、渡辺謙の演じたサイトーについてちょこっと書いときましょうか。

サイトーというキャラクターは、ちょっと謎の人物。
ものすごい金と権力を持っている。
しかもライバル会社を潰す為に、それを惜しげもなく使っちゃう。
客室乗務員を買収するくらいなら、航空会社こと買っちゃえって、どうよ。
しかも電話1本で。
電話1本といえば、国で指名手配になっている男を、それこそ電話1本で無罪にしてしまうのだから、相当なもの。
実に卑しい人物に思えそうなところを、紳士的な人物に見えるのは、渡辺謙の持つ雰囲気かしらね。
彼はコブの仕事ぶりを見張る為に一緒に夢に入るけど、結構役立たず。
挙句、夢の第1階層目で撃たれて死に掛けて、みんなに迷惑をかけるはめになる。
でもこれは、深い階層で何十年も時間をかけてやるはずが、とてもそんな長い時間は作品に納まらないから、時間に制限を設ける為のキャラ、となるのかな。
コブは、なんとしてでもサイトーには無事で起きてもらわないといけないからね。

なかなか面白かったですよ。
3Dにしなかったところも、好感が持てるし。
それに、セット撮影とはいえ、どういうふうに撮ったか分からない不思議なシーンもいくつもあり、それを想像するのも楽しかった。
どの階層でも、ショックで一斉に目覚めようとタイミングを合わせるのには、ドキドキできたし。
あれ、あのサイトーのライバル会社は、無事、潰れたのかしらね。

難しー、と言わず、見てみて下さい。
階層と目的を忘れなかった、絶対楽しめるから。
いろいろあの映画に似ている、とか、もう既存のアイディアだ、とか言われたりもしているけど、でも決して、同じものではないし、それほどどれかと似ているとも思えないよ。
似て非なるもの。
こういう作品がイヤでなかったら、見て損しないと思うな。
是非。お勧めです。

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クローヴ

はじめまして。
私も観て、かなり興奮しました(^^)
たしかにちょっと複雑な部分もあるけど、難しくはないと
思いました。
3Dにしなかった…理由かどうかわかりませんが、
ノーラン監督は今の3Dの水準に満足していないらしいですね。
by クローヴ (2010-07-30 23:44) 

LICCA

クローヴさん、はじめまして!
コメントありがとうございます!

楽しかった、と言える映画でした。
きちんと見ていれば、難しくはないですよね。
監督が3Dに満足していないんですね。
今は猫も杓子も3Dですが、合う作品となくてもいい作品とあると思います。

by LICCA (2010-07-31 13:48) 

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