SSブログ

妊婦と誘拐犯 【誘拐犯】 [映画日記<2006年>]

「誘拐犯」をレンタル&視聴。

メキシコの埃っぽい赤茶けた土と、その土色の建物を見ると、物悲しくなるのは何故だろうね。

その日暮らしのアウトロー、ロングボー(ベニチオ・デル・トロ)とパーカー(ライアン・フィリップ)。
金に困った二人は、精液提供に訪れた病院で、代理母の妊婦ロビン(ジュリエット・ルイス)の存在を知り、誘拐を企てる。
護衛を上手く出し抜き、ロビンの誘拐に成功する二人だったが、実のところ、ロビンのお腹の子の、本当の両親を知らなかったのだ。
身代金も要求できない二人。
だが、ロビンの主治医のペインター(ディラン・カスマン)と接触すると、彼の口から、子供の本当の両親は、チダックという裏社会を牛耳る、組織の一員だという事が分かる。
1500万ドルを要求する二人。
もちろん黙って手をこまねいているチダックではなく、金の出所がバレると危ないチダックは、護衛にロングボーとパーカーの始末を言いつける一方、一切の面倒の後始末を任されている掃除屋ジョー(ジェームズ・カーン)も動き出していた。
果たして、ロングボーとパーカーは無事、身代金を手にできるのか、ロビンとお腹の子の運命は・・・

登場人物、もれなく皆、悪人。善人なし。もしくは嘘吐き。
個人の思惑で動いている人物ばかり。
ロングボーとパーカーの二人からして、金がなくなりゃ、犯罪でも何でもかまわないという考え方。
パーカーの方が、若い分、少し臆病かな。
割り切り方が、あっさりしすぎだよね。
チダックの妻フランチェスカも、自分の立場を確立させたいが為に子供は欲しいが、妊娠はしたくないという理由で、代理母を雇ってしまうのだから、女としては酷いんじゃないかな。
しかも、護衛の一人とデキていたから、言語道断。
思わぬ大穴だったのが、ロビン。
彼女も、大胆に嘘吐きだったのだけど、お腹の子供は、実はチダック夫妻の子ではなく、自分とペインター医師の子。
しかもペインターは、チダックの実の息子。
ロビンは、代理母の報酬欲しさに嘘をついた訳だけど、彼女の存在が、ロングボーとパーカーを思う存分振り回してくれていたよね。
彼女の母性も、ロングボーとパーカーを、少し変えらたれのかな。

個人の思惑で動く人ばかりだから、敵対関係がバラバラ。
みな自分が得をしたいだけだから、事態の行く末が見えない。
それが作品の面白みでもあるのだよね。
そのくせ、邪魔なものは、バンバン撃つ。
撃って排除。
そういう人物達の中で、唯一、その時がくるまで発砲しない人物がいたよ。
チダック専属の掃除屋ジョー。
彼は、交渉が先で、撃ち殺して排除は、その次という考え方の掃除屋。
渋くて、カッコ良すぎ。
演じるジェームズ・カーンが、初老の男なのだけど、どこか眼光鋭く、抜け目がなく、油断もない。
ロングボーと一対一で話をしに来る件は、なんか男臭くて、良かったわ。

結局は、撃ち合いで収拾になるのだね。
国境のモーテルでの撃ち合いに、その後のメキシコの娼婦宿での撃ち合い。
モーテルでの撃ち合いは、ロビンが一人逃げ出そうとした騒動から、地元警察まで巻き込んで、双方撃ち合い、ロビン確保にやっきになるのだよ。
その際、ロングボーとパーカーが、遠方からの狙撃をするのだけど、着弾の後に、銃声が聞こえるのは、カッコ良かったわ。
そして、簡単に人が死ぬ。
なんとか逃れたロビンとペインター医師は、メキシコの娼婦宿で出産しなければなくなり、しかも胎盤剥離という症状を引き起こしたロビンは、その場で帝王切開となる。
そして外では、追いついてきたロングボーとパーカーが、ジョー達と撃ちあう。
とにかくバンバン撃ち合い。
一方では、出産。
生と死の対比だった訳だね。
これは、最後まで気付かなかったわ。

正直に告白すると、誰にも感情移入できなくて、困っちゃった。
登場人物の思惑はバラバラだし、しかもみんな悪人ぞろい。
悪人でも、共感できればいいのだけど、どこかいびつというか収まりが悪いというか。
一番共感できたのは、ジョーだったかも。
ジョーの恩赦だろうけど、結局殺される事はなかったロングボーとパーカー。
二人共助かったかどうかまでは分からんけど、乾いた大地に転がったまま動けない二人を見て、彼らにはこれがお似合いだよ、と思ったわ。
妊婦を利用しようなんて、まずその時点から、多分許せなかったのだと思うわ。
私がね。

この妊婦というのが、曲者だったわ。
見ていて、とても苦しかったのだけど、その理由がようやく分かったわ。
ロビンの存在だよ。
ロビンが妊婦だったって事。
しかも臨月で、出産&帝王切開を、何にもない娼婦宿でしなくちゃならなくて、非常に心細いシチュエーションが、多分苦しい原因だと思う。
撃たれたり、切られたり、スプラッタは苦手だけど、それこそ手や足が簡単に飛ぶ映画は、かなり見ているのにも関わらず、妊婦というのは、曲者だわ。
きっと私が女性で、しかも妊婦になってもおかしくない、子供の一人や二人いてもおもかしなく年齢って事で、ロビンに感情移入していた自覚はないけど、でもそういうのに似た感覚はあったのでしょうね。
出産というのは、自分一人じゃ、どうしようもないでしょう。
しかももう一つの命を預かる母親ってのは、責任があるのだし。
それを利用して、さらに危険にさらしてってのが、主人公の二人にいまいち入り込めない原因だったんじゃないかな。
そうだわ。
妊婦を労わらない二人は、罪も何もないお腹の子にまで危険にさらして。
それが原因だわ。
もうさぁ、ロビンが途中から、いたたまれなくなってくるのよね。
まず大きなお腹を抱えて、歩き方からして痛々しいの。
出産の痛みっていうか、出産シーンの妊婦の声とか聞いてると、何故か苦しくなってくる。
女性って皆そうなのかしら?
逆に、男性がどう思うのか、教えて欲しいかもね。

ラスト、ナレーションで、これはパーカーの声なのだけど、
「神は結局、願いを叶えてくれる。その声が聞こえた順で。」
というようなセリフがある。
神に聞こえた声の順番。
まず、ロビン、そしてペインター医師でしょう。
次は、実際妊娠したフランチェスカかな。
あとは、多分、聞こえてないんじゃない。
少なくとも、ロングボーとパーカーの声は、聞こえてないね。
神は気まぐれ。
いつでも、そういうものだよ。

複雑な人物同士の関係や、嘘や裏切りなんかは、上手くできていたと思う。
監督さんが、複雑では群を抜く「ユージュアル・サスペクツ」の脚本家だった人らしい。
ベニチオ・デル・トロ兄貴も、存在感は相変わらずすごいよね。この人はさ。
もう少し、ベニチオ・デル・トロ演じるロングボーに感情移入できたら、きっと良かったよね。
あと教訓。
妊婦が出てくる映画には、気をつけよう。
シチュエーションによっては、苦しくて、ストーリーに集中できなくなる場合もあるからさ。
思いっきりハッピーエンドになってくれたら、そうでもないのかな。
どうだろう。
あぁ、撃ち合いの面白さに、いまいち集中できなかったのが、ホント残念。
遠距離射撃とか、本当にカッコ良かったのにね。
銃声と着弾音がカッコイイと、撃ち合い自体がカッコ良く思えるのよ。
いまいちだった「マイアミ・バイス」の唯一良かった点は、リアリティのある銃声だったからね。
せっかく紹介して頂いた作品なのに、見てみるまで分からないとは、こういう事なのだね。
う~ん、教訓。

誘拐犯 DTSスペシャル・エディション

誘拐犯 DTSスペシャル・エディション

  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • 発売日: 2002/08/23
  • メディア: DVD


P.S
教えて頂いた作品なのに、こんな感想で、なんと言うか申し訳ないっす。
でも、これに懲りずに、また教えて下さいね。
まず見てみる。それが信条ですから。


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 2

堀越ヨッシー

いえいえ、なかなか読み応えのある記事でした!。
まず、LICCAさんの女性の視点から見た作品の捉え方ってのが、オイラにはすごく新鮮でした。なるほど...オイラは映画を見ながらそれほど深く妊婦については考えてなかったな..と、目が覚める思いがしました。男女間での見方の違いってやつを改めて認識しました。
LICCAさんは誰にも感情移入できなかった(苦笑)と言っていましたが、オイラはもうデル・トロに感情移入しまくりでした。...いや、正確に言うとそれは違うかな。感情移入というよ、憧れみたいなものを感じてました。ロングボーの生き方は決して褒められたものではないけど、その一方でああいう自由奔放な生き方ってやつに心のどこかで憧れを感じてしまうんですよね。そういう生き方って実際には出来ませんから...。
オイラはこの映画、劇場で見たんですが、その時は銃撃戦の音は凄かったですよ!。マイケル・マンは確かに銃へのこだわりはハンパじゃないですもんね。つい最近オイラは「コラテラル」を見たんですが(ブログで記事にしました!)、トム・クルーズが街中で発砲する時の音が尋常じゃなかったです(苦笑)。「マイアミ・バイス」はレンタル待ちですね。コリン・ファレルの“無駄に長いベッドシーン”が見物だそうですね!(苦笑)。
感想、ありがとうございました!。
by 堀越ヨッシー (2006-10-30 07:59) 

Catcat44

こんばんわ!
nice&コメント、ありがとうございます!!
男の方が、ロングボーの生き方に憧れるってのは、分かりますよ。なんかカッコイイですよね。何にも縛られない奔放な生き方って。大概の人は、社会か何かに属して生きている訳ですからね。
監督はマイケル・マンでしたね。「コラテラル」は映画館で見ました。コメントはしていませんが、ブログの方も読ませて頂いてますよ。
とにかくトムは、バンバン撃ってましたよね。ラストで、トムがああなる役ってそうそうないから、印象に残りました。クールな割りに、たまにおマヌケ(笑)な殺し屋さんでしたね。
「マイアミ・バイス」は、コリン・ファレルの顔より濃い、濡れ場が見れますよ(笑)
by Catcat44 (2006-10-30 23:55) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。