SSブログ

不妊と希望 【トゥモロー・ワールド】 [映画日記<2006年>]

「トゥモロー・ワールド」を見たよ!

公開してまだ間もないし、ネタバレしているので、ご注意下さいね。

未来の世界を描いた作品は、数多くあれど、“不妊”がテーマになった事は、今まであったのかな?

2027年。
世界は18年間、子供が生まれていなかった。
世界は乱れ、唯一、政府が何とか機能している都市ロンドン。
徹底的に移民や外国人を締め出し、強制所へ送る政府。
人間は生殖機能を失って、滅亡へのカウントダウンを始めていた。

エネルギー省へ務めるセオ・ファロン(クライブ・オーエン)は、人類の未来も、世界の未来も、自分の未来さえ、興味を見出せない男。
ある日、彼は、何ものかに拉致される。
着いた先にいたのは、20年前に別れた妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)だった。
活動家のジュリアンは、地下組織FISHのリーダー。
ジュリアンはセオに、通行証を用意して欲しいと頼む。
それは、その通行証を使って、ある女性を、“ヒューマン・プロジェクト”なる、世界の極秘組織に引き渡す為。
その女性キー(クレア=ホープ・アシティ)は、妊娠していた。
キーを“ヒューマン・プロジェクト”の船へ。
混乱を極める世界で、セオは彼女を連れて、その船までたどり着けるのか・・・
そして船は、“ヒューマン・プロジェクト”は、本当に実在するのか・・・

冒頭、世界で一番若い、18歳の男性。
その彼が死んだニュースから始まるのだけれど、人々の反応の異常さに、この作品の世界観が、すぐに分かるように、作られていたよ。
みな、我が子のように、悲しみ嘆くのだから。
しかもその男性は、生まれた時から、一番若いとの理由で、世界的に有名人で、しかもファンに刺殺されたのだから、異常でしょう。
そのニュースに興味のなさそうな主人公セオが、カフェから出ると、いきなり爆弾テロに巻き込まれそうになる。
で、すぐに、この世界が、すでに崩壊している事が分かるのだな。
世界はどこも無政府状態で、ロンドンが唯一の自治政府が存在する都市。
それでも、政府が擁護するのは、市民のみ。
市民証を持っていないものは、みな、収容所行き。
荒廃した世界を、未来に設定して、そういうSF映画は、数多くあるけど、2027年という中途半端に近い未来ってトコが、ドキリとさせられたね。
人間が、突然、生殖機能を失って、妊娠できない女性ばかりって、辛くない?
突然変異とか、未知のウィルスとか、遺伝子操作とかなら、何となくSFちっくな題材で、フィクションだろうと思えるけど、不妊ってものすごくリアル。
リアルに作ってあるのではなくって、ただリアルなの。
妊娠って、自然な事でしょう。
そりゃ、する事はするけど、あとは運を天に任せて、というか、妊娠する時にはする、しない時にはしない、って。
する事はしても、できないって、すごく虚しいよね。

主人公のセオは、巻き込まれ方の典型。
ジュリアンがセオしか信用できなかったのには、訳があったのだよね。
活動家の地下組織FISH、ジュリアンには、多分、組織の裏切りを知る機会があったのでしょう。
ジュリアンは、ただキーを、安全に出産させたかったのでしょうけど、FISHには、キーを使って、人権を取り戻したいという大義があったのだからね。
キーを道具にしたくなったジュリアンは、、信用できるセオに、キーを託したかった訳だ。
そのおかげで、というか、結果セオは、キーを連れて、政府から追われ、FISHからも追われる事になるのだよね。
人生ヤル気ゼロのセオが、巻き込まれたとはいえ、幻に近い存在の、“ヒーマン・プロジェクト”に、キーを送り届けようと決めたのは、ジュリアンの存在かな。
ジュリアンはFISHの裏切りで殺されてしまうけど、かつてジュリアンとの間に、子供まで儲けていたセオには、妊娠8ヶ月で、お腹の大きなキーが、今まで見出せなかった“希望”に見えたのかな。

セオを演じるクライブ・オーエンが、疲れた中年がよく似合う。
昔はセオも活動家だったらしいけど、今はその影すらない。
そんなヒーロー像からかけ離れたセオが、命がけでキーを守る姿が、痛々しくもあり、頼もしくもあるのだな。

追われるセオとキーが逃げ込んだのが、収容所の中。
そこから船へ乗るはずが、そこでキーは、出産せざるおえなくなる。
出産シーンを、真正面から映した、
はっきりいうと、女性の足の方から映したシーンを見たのは、初めて。
ごまかしやぼかしなしでね。
産道から、赤ちゃんがスルリと出てきて、泣き出し、へその緒がついたまま、母親の腹の上に抱かれるシーンてのは、今まで見た事ないよ。
しかも、これだけメジャーの作品でね。
多分、あんだけ汚い場所で、しかも初産で、キーですら妊婦なんて見た事なくって、出産の手伝いが男性のセオだけで、いくらセオが、かつて子供を育てた経験があるったって、あんなに簡単に出産できるものではないでしょう。
その点は完全にツッコミところなのだけど、それ以上に、出産シーンが神聖なものに見えたのだから、制作側の勝ちって事かな。

生まれた子供を連れて、さぁ、船へってところで、収容所内は、一斉蜂起が起こり、大混乱になる。
一斉蜂起の移民と、それを鎮圧する警官隊と、セオを追ってきたFISHの面々。
銃弾が飛び交う、正に戦場から、セオはキーと子供を連れて、ひたすら船を目指す。
もうダメか・・・ってところで、大声で泣き出した赤ちゃんに、一瞬周りは、静寂に包まれる。
敵味方なく、みな、18年ぶりに聞く赤ちゃんの鳴き声に、唖然とし、何か神でも見るような視線を、ただ黙って送る面々。
十字を切るもの。赤ちゃんに手をかざす人々。祈りの言葉。
死の中の、希望。
必要以上の演出に、赤ちゃんの存在の神々しさが、際立っていたね。
それだけ、人類にとっての、希望、未来なのだよね。
このまま不妊が続けば、その原因が分からないままであれば、
近い将来、50年、60年もすれば、地球上から人間は、誰一人いなくなる。
それが現実のものとなるつつある世界で、赤ちゃんの泣き声ってのは、きっと神以上の存在だったのでしょうね。

このクラマックスのシーン。
監督のこだわりで、長回しで撮影されたらしい。
ハンディカメラで回しっぱなしの映像だったよ。
あくまでもセオの視線でね。
で、その中で、少し気になったのだけど、銃撃戦の途中で、セオの目の前で撃たれた誰かの血が、カメラのレンズに付いて、そのまま、フレーム内に血が付いたままで、シーンは進んでいくのだよ。
ものすごく臨場感はあるのだけど、その後、ちょっと待てよ、って思って。
ずっとセオの視線で、臨場感たっぷりに、銃弾の雨の中、キーを守ろうと、命をかけるセオなのだけどね。
そのレンズに血が飛び散って、そのまま映像が続いた瞬間ね、セオの一人称だった映像が、急に第三者、三人称の映像に変わってしまったのだよ。
誰かが、セオを撮っている。そういう映像。
セオの視線だったものが、誰かの視線になった瞬間だよね。
すごくもったいない。
長回しの映像も素晴らしいと思う。リアリティがあって、臨場感があって、でも、ずっとセオの視線だったんだもの。それで通さなきゃ。
そう思っちゃった。

ついにボートに乗って、船に乗る為に、海に出るセオとキー。
セオが、多分助からないだろうってのは、予測できたわ。
セオと引き換えのように、姿を表す“ヒーマン・プロジェクト”の船、トゥモロー号。
セオは、その船を見る事なく、戦いを終える。
キーは船に拾われて、幸福になれたのかな。
そして、不妊の原因はつかめたのかな。
人類は、まだ、未来を諦めてないのかな。
エンド・ロールを見ながら、ちょっとそんな事を考えてたわ。
この作品、絶望の中の希望というものが、ものすごくはっきりと目に見えるものだったよね。
赤ちゃんという存在でね。
で、キーはきっと聖母マリアで、それを守るセオは、典型的なヒーローだ。
それほど宗教っぽくなくて、分かりやすい構造も、たまには必要だよね。
ややこしい設定や、隠させた希望とかより、はっきり見せてくれるのは誰が見ても分かるから、いいのかもね。

途中、どのあたりだったかな。
弦楽器の、ものすごい不協和音が、突然流れるのだけど。
不安をかき立てるのには、いい効果だけど、ちょっと耳障りで、気になったわ。
それと、ロンドンの高官、セオの従兄弟がいる、すごい豪勢な屋敷の壁画に、ピカソの「ゲルニカ」が飾ってあって、ちょっと笑った。
「ゲルニカ」って、確か、ピカソの反戦への気持ちだったと、習った記憶があるのだけど。
皮肉かしらね。

この先、書く事は、本当は、私がどこの誰だか知っている人には、ちょっと読んで欲しくない内容かも。
映画を見終わって、妊娠、出産って事について、ちょっと考えちゃった。
そういう年齢だし。
今は、結婚を誓った恋人もいないし、子供を作る予定もないけど。
妊娠・出産だけが、女性の責務だとは、決して思わないよ。
でも、妊娠・出産は、女性のできる責務の中の、一つだとは思う。
今、ニュースで、我が子の虐待の話が、毎日のようにあふれているでしょう。
そのニュースを見て、大概の人は、信じられないって思うのかな。
腹を痛めて生んだ子に、そんな仕打ちができる訳がないって、思うのかな。
でも、私はね、時々、こう思うんだ。
もし、誰かと結婚して、子供を生んで、育てて、ある日突然、自分の子が、可愛いと思えなくなったら、どうしようって。
生んでみたものの、可愛く思えなかったら、どうしようって。
母親に、向いていなかったら、どうしようって。
周りの人は、生んでみれば、可愛いって思えるから大丈夫って言うけど、
実際、生んだ事ないのだから、私に分かるはずない。
そう思う私を、オカシイと思っても、それはそれでいいのだけどね。
でも、この映画を見て、ちょっと、子供を生む事に、何か神聖なものが、見えた気がする。
いつの日か、そういう日がくるのも、悪くないと、思えたよ。
それだけでも、見たかいがあったって事かな。
キャラになく、感傷的な気分になっちゃったよ。

他の人は、どんな感想を持つかな。
とりあえず見てみてね。


nice!(3)  コメント(8)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 8

堀越ヨッシー

最近、クライヴ・オーエンはグイグイ来てますね!。知的なキャラをやらせても上手いし、善役も悪役もこなせる今一番注目株の役者さんですね(あの太い眉毛もタマラン!)。
カメラに付着した血痕のくだり...なるほどなーと思いながら読ませて頂きました。今はデジタル技術もあるんだし、うまくやればカットした事がわからないようにハサミを入れる事も可能だろうし、それこそ画面から血痕のみを消去する事だって出来るんじゃないッスかね。
話はちょっと変わりますが、戦争映画のパイオニアとなった「プライベート・ライアン」以降、手持ちカメラでの手ブレ映像がホント多くなりましたよね。つい先日オイラの大好きなレイ・リオッタ兄貴のクライム・サスペンス「ナーク」っていう映画を見たのですが、映画の冒頭で主人公の刑事が犯人を追うシーンで、かなり長い手ブレ映像(主人公の目線映像)があって、見てて本当に疲れました。テレビで見てこれだけ疲れたんだから、実際に映画館のフィルムで見た人はきっと気持ち悪くなったんじゃないかな?、とちょっと思ったりしました。最近じゃ「MI3」でも手ブレ映像を多用してました。手ブレ映像は確かに臨場感があって迫力が増しますが、必要以上に使用されると、ホント目が疲れるし、気分が悪くなりますよ。
オイラも、自分の子供がもし生まれてきたら...なんて事を漠然と考えたりする事もありますが、今イチ、リアリティがわきません。それよりも、子供を責任ある人間に育てられるかどうか、そっちの不安の方が大きいですね。でも、この話をすると大抵の人はこう言います...「案ずるより、産むが易し」ってね。意外とそうなのかもしれません...。
...あ、また長くなっちゃいました!(苦笑)。
時間があれば、見に行きたいですね。変な意味じゃなく、その出産シーンを見てみたいです。
by 堀越ヨッシー (2006-11-22 08:09) 

Catcat44

こんばんわ!
手ブレ映像、ホントに多いですよね。臨場感を出すには、最善の方法かもしれないですけど、たまに、せっかく用意周到に作り上げられたアクションや、主人公の顔やら動きやらが、効果を狙った手ブレで、映像として認識できない時があるのですよね。
動体視力、いくつあれば見れるんだよ!みたいな。
そこそこならOKですが、いきすぎはアウトだと、そろそろ監督以下スタッフも、気付いて欲しいです。
あの血のついたレンズのままの映像は、ワザとな気がします。でも、私には、逆効果だったって事ですね。
なんかこの作品、他の人のレビューを読むと、駄作とまであっさり切っている方もいて、賛否両論なのかと、ちょっと驚きました。いや、私は、いろいろ思うところがあったもので・・・
出産シーンは、ちょい遠目の、薄暗い映像ですけど、なんかすごいです。なんかすごいんです。もし機会があれば、是非!
by Catcat44 (2006-11-22 21:53) 

飯田

見てみたい!
その昔タイトルがずばり「出生率0」という本が大好きでした。
終わり方だけは納得できない本でしたが。
最寄のツタヤで探してきます!
by 飯田 (2006-11-28 03:18) 

Catcat44

コメント、ありがとうございます。
映画の方は、公開してまだそれほどたっていないので、是非、見に行って下さいね。
本も、再読できるといいですね!
by Catcat44 (2006-11-28 23:40) 

non_0101

こんにちは。
SF的にはちょっと消化不良な気もしましたけれど、
やっぱり子供は宝なのだなあ…としみじみ思ってしまう作品でした。
きっと監督はそこを一番に見せたかったのでしょうね。
> それだけでも、見たかいがあったって事かな。
そうそう、本当にそう思います☆
by non_0101 (2006-12-02 11:24) 

Catcat44

nonさん、こんばんわ!
コメ&TB、ありがとうございます。
確かにふれこみのSFアクション大作ではなかったですけど、赤ちゃんの存在は大きかったですよね。
監督さんの言わんとしている事は、伝わったのかなぁ・・・と。
子供の存在意義を、改めて考えましたよ。それだけでも、見て良かったと思ってます。
by Catcat44 (2006-12-02 21:14) 

クリス

>ジュリアンは、ただキーを、安全に出産させたかったのでしょうけど、FISHには、キーを使って、人権を取り戻したいという大義があったのだからね。

これって男と女の決定的な違いのような気がしますね。ジュリアンの過去はセオにとっても同じな訳で、そういったこともセオが再び立ち上がる底力にいなっているんでしょうね。
監督は、エンディングから新たに物語が始まる作品が作りたかったといっていました。その意図がよくわかる作りで、観終わった後も特に嫌な重さが残らなくて良かったです。
by クリス (2006-12-12 08:54) 

Catcat44

>蟻銀さん、こんばんわ!
来なきゃしょうがないでしょう、と思いながらも、本当にトゥモロー号がもやの中から現れた時には、やはりぐっとくるものがありましたね。
セオにも、トゥモロー号見て欲しかったなぁ、と。
私、妊婦という存在に、非常に女性を感じてしまうようなんです。
キーが、あの後船に乗って幸福になれたと思えば、少しだけ救われる気がしますよね。
by Catcat44 (2006-12-12 22:50) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。