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期待ゆえに・・・ 【武士の一分】 [映画日記<2007年>]

「武士の一分」を見たよ!

母とデートの約束。
日にちが合わなくて、今になっちゃったよ。

海坂(うなさか)藩。
三村新之丞(木村拓哉)は、お毒見役。
たかだか三十石の下級武士であったが、
器量良しの妻、加世(壇れい)と、父の代から仕える中間の徳平(笹野高史)と、慎ましやかに暮らしていた。
形ばかりで中身のない毒見役に未練はなく、早目に隠居をして、近所の子供達に、剣術を教えながら暮らしたいと、加世にもらす新之丞であった。
ある日、お役目の最中、新之丞は突然倒れる。
場内は、藩主に対する毒殺か?と上へ下への大騒ぎとなるが、
吟味の結果、巻貝の毒にあたった事が分かる。
料理毒見の総責任者である樋口作之助(小林稔侍)が切腹をして、一件落着となるが、
新之丞は高熱を出し、三日三晩昏睡状態になる。
やがて目覚めた新之丞であったが、彼の人生を一変させる出来事が起こる。
失明していたのだ。
貝の毒によるもの・・・医師の見立てはどうであれ、新之丞はこれから先、一生暗闇の中で生きていかねばならない。
それに追い討ちをかけるように、妻の不審な行動を、叔母の以寧(桃井かおり)から聞かされる。
加世の口から真実が語られた時、
果たして新之丞は、どんな決断を下すのか。
そして、「武士の一分」に命をかけた新之丞の運命は・・・

良くも悪くも、娯楽作。

冒頭、やや長めのあらすじを書いてしまったけど、
要は、夫、新之丞の行く末を案じた妻加世が、口ぞえを頼みに行った上役の島田籐弥(坂東三津五郎)に手篭めにされ、
しかも、口ぞえ話は建前で、島田はただ、娘の頃から加世に目をつけていて、モノにしたいだけで、口ぞえも実際にはしておらず、
その落とし前をつける為に、
新之丞が、島田と、果し合いをする。
というお話。
痴話ゲンカ・・・とも、言えなくもない、かな。

山田洋次監督、藤沢周平原作という事で、
もっと深くて重い、静かに進行するような、大人の時代劇を想像していたのだよね。
それが木村君主演なら見たいかも、って思ってたんだけど。
フタを開けてみれば、なんて事はない、家族みんなで楽しめる、お正月映画じゃん。

舞台の海坂藩とは、藤沢周平が、作品にしばしば登場させる、
庄内藩をモデルにした、架空の藩らしい。
今作は、庄内弁が、地方の田舎を想像させて、良い方向に作用していたと思う。

正直、
主人公の新之丞と、その妻の加世が、エモーショナルなシーンを演じている時より、
それ以外の、いわゆる脇役のキャラクター達が、
物語の中で、それぞれの役割を演じているシーンの方が、面白かったりしたんだよねぇ。
新之丞の叔母、以寧役の桃井かおりには、ヤラれた。
とてもおしゃべりで騒々しく、おせっかいで、でも憎めない親戚の叔母さん。
この通りだよ。
妻の不貞疑惑を、新之丞に教えるのも、彼女の役割だったのだけど、
噂話好きそうで、いかにも、かわいい甥に、打ち明け話しそうだもん。
むしろ、こういう類の話を、持ってくるのは、彼女以外いないんじゃないかってくらい。
役、合いすぎ。
それと、早々切腹しちゃうけど、樋口作之助を演じた小林稔侍も、いいキャラを作ってくれたと思う。
もうすぐ隠居間近の年で、足腰も弱っているし、役目の最中なのに、居眠りしたり、
ちょっとした仕草が、おかしさを誘うのは、さすが。
そんな彼が、責任を取って、切腹するシーンは、そんなキャラを見ているこっちも分かっているから、心が痛くなる。
どんなにいい人でも、この頃は責任を取るには、やはり切腹かぁ。
なんて思いながら見てたよ。
次の間で、親族みなが、切腹している主人を、ただ見守っているだけってのも、いかにも、この時代らしいし。
それならそれで、新之丞と、もっとからんで欲しかった。
切腹した身近な上役を、新之丞が何とも思わなかったって事はないだろうにね。
敵役島田を演じた坂東三津五郎は、どう見ても、女好きのいやらしい顔つきに見えて、仕方なかった。
これは、さすがと言うべきか?
それと、三村家に仕える中間、徳平役の笹野高史は、最高。
何をかいわんや。
見てもらえれば、この作品における、彼の役のその価値は、すぐ分かるよ。
お上が、下級武士にとって、どれだけ遠い存在かってのも、よく分かるし、
毒見役の、なんというか、滑稽さとか虚しさってのも、伝わってくる。

だからなのだけど、
新之丞と加世の、大事な大事な二人のシーンが、
特に、目が見えなくなって自暴自棄になる新之丞と、
自害しそうになる夫を支える加世の感情がぶつかり合うシーンとか、
妻の不貞を、妻自身の口から聞かされて、怒りを抑えながらも、抑えきれない新之丞と、
一思いに切って下さいと懇願する加世のシーンとかが、
物足りないかなぁ、って思っちゃった。
他の方のレビューで、“軽い”と書かれていたのは、このせいかな、って思った。
実を言うと、ラストのシーンとかで、涙がこらえ切れなくて、ポロッときちゃったのは、認めるよ。
でも、やっぱり、見る前の想像とは、違ったんだよね。
エンターテイメントとしての感動なのかな。こういう感じは。
お互いを思いやる愛情と、
それとは全く別次元にある「武士の一分」。
伝えたい事は、とても良く分かったのだけど、
胸の奥まで、グサッとくる感じには、まだ遠い。
だから、良くも悪くも、娯楽作なのだよ。
山田洋次と藤沢周平の名で見に行った人と、
木村拓哉の名で見に行った人では、
おそらく、見た感想が全く違う気がする。
私は、後者だろうな。
それでも、なんだか涙出ちゃったし、結構楽しかったじゃん、と思う私と、
なんだか物足りないなぁ、もっと深い作品を期待してたはずなのに、と思う私と、
両方いたのが、現実。
明らかに、後者を楽しみにしていたふうの母は、満足そうだったけどね。

この作品における、肝心要の木村君だけど、
家の中で、妻と感情ぶつけあっている時より、
道場なり、果し合いの場なりで、
剣を持って、命を張っているシーンの方が、
より堂々して、大きく見えたよ。
木村君って、笑い方が、木村君なんだよね。
笑うと、あ、いつもと一緒だ、って非常に感じる。
しかも、演じている笑いなの。
難しい役だろうけど、わざとらしくならず、きっちりこなしているあたり、
さすが、器用な人だなぁと思う。
帯を締めるのに、腹にどうもタオルかなんか仕込んでいるなぁと分かる気がするのは、ご愛嬌だね。

セットや衣装、時代考察や、身分の違いなどは、さすが。
それはいいとして、一つ、人物以外で、気になった事があった。
それは、天候。
簡単に気がつくのだけど、
主人公の感情や、物語の進行に合わせて、天候も変わっているのだよね。
何かが起こる前触れとしての雨や、
感情の高ぶりの雨、悪い事が起きた時の強風とか、いろいろね。
でも、簡単に気がつくって事は、そのくらい、わざとらしかったって事。
途中、やりすぎだろう、って可笑しくなっちゃった。
ま、映画じゃよくやる手段だけどね。
主人公の感情と、天候を合わせるのはね。
もう少し、自然にお願いします・・・
あと、余談に近いけど、
オープニングのキャストのロールと、エンドロールが、ドラマとたいして変わらなかったのは、つまらん。
映画なのだから、映画らしく、もっとこだわって欲しかった。
時代劇だと言っても、もう少しやりようがあるだろうとね。
洋画は、どの作品も、結構こだわっているよ。
邦画は、あまりこだわったものに出会ってない気がする。

本当に、良いにも悪いにも、どちらにも転がれない感想しか、出てこないなぁ。
「たそがれ清兵衛」も「隠し剣 鬼の爪」も見てないし、山田洋次監督のすごさもほとんど知らないけど、
どこか、“何か”を期待していたのは、事実なんだよね。
だから、その物足りなさを埋める事はできないんだよ。
でも、映画の大前提である、娯楽作として見れば、確かに面白かったし、
多分、私も、楽しんで見てたよ。
でも、どうしても、どちらの感想も、私の中で競っていて、どちらも同じように、主張してくるんだよね。
決められない。
決して、面白いつまらないだけで、映画を見ている訳じゃないけどね。
新之丞が果し合いを決めた後にね、
徳平にぽろっともらすセリフがあるんだけど。
妻も離縁し、目も見えず、それでも命をかけて果し合いをするって決めた新之丞が、
「一太刀でもいい、恨み全部込めて、(島田を)切りたい」と言うの。
これって、この映画の核心につながるんじゃないかと思って。
これでしょう。
新之丞の心情って言ったら。
起こった事全てが、もうどうしようないんだけど、それでも切りたいんだよ。新之丞は島田を。
あまりにもさらって言っていて、スルーしそうだったけど、
妙にひっかかったセリフだったから、ちょっとニュアンス違うかもしれないけど、覚えてたよね。
この部分が、もっともっと深くささってくるような感覚が得られたら、もっと違った感想が出てきたのかもね。
全ては、期待ゆえに、なのだけど、
作品が作品だけに、仕方のない事もあるよ。

これから見に行く人がいるか分からないけど、
半年後あたりに、DVDで見る人もいるはず。
安心して見て良いよ。
特に木村君ファンなんかはね。
ガッチガチのハッピーエンドだもん。
果し合いの後、どう始末をつけるのか、若干気になったのだけど、
ここまで絵に書いたような結末がくるとは、思わなんだ。
加世の事は、気にはなっていたけど、
あのラストは、涙出ちゃったのは悔しいけど、恥ずかしいほどの落とし方だよね。
ま、これも、一つの楽しみ方だよ。うん。

最後に、映画の内容とは関係ないけど、
俳優、木村拓哉という事についての、一考察。
興味がなければ、飛ばして下さいな。
木村君は、年も近いという事あって、
SMAPが、深夜番組「夢がMORIMORI」で、音松君とかのコントをやっていた頃から、見てた。
SMAP自体、世代が一緒だからね。
実を言うと、“キムタク”という呼び方は、かなり嫌い。
“キムタク”は、商品名でしょう。
木村君が芝居をすると、木村拓哉にしかならない、って分析を、たまに聞くけど。
多分、その通りなんじゃないかな。
どんな役を演じても、所詮、木村拓哉っていうね。
でも、これは、俳優としては致命的でもなんでもなくて、
むしろ、個性としては、アリ。
過去に、そういうタイプの大物俳優だっている訳だし。
ハリウッド俳優も、しかり。
これを踏まえて、
木村君には、木村拓哉のイメージを、完全に払拭できるような、今までに演じた事のない役を、
いつの日か、演じて欲しいって、ずっと思ってた。
そこまでのファンじゃないんだけどね。なんとなくおせっかいでさ。
ヒーローばっかでしょう。連ドラじゃ。
何をやっても、彼、器用だから、多分、なんでもそれなりにこなせちゃうと思うんだよね。
ハリソン・フォードみたいな逃亡犯もカッコ良くなりそうだし、
詐欺師やサイコパスをやらせても、カッコ良くなりそう。
もっと、ヨゴレな役で、
ジャンキーとか、ヒモとか、女にも金にもだらしないとか、意思が弱いとか、
救いようのないアホな理由で人を殺した、とかやって欲しいって思ってた。
でも、「武士の一分」を見て、少し意見が変わった気がする。
木村君って、ヒーローな役を演じてこそ、木村君なんじゃないかと思って。
もちろん、俳優としての、木村君ね。
ムリに、おかしな役を演じる必要もないのかなぁ、ってぼんやり思ったんだ。
彼が、かつてのブラッド・ピットみたいに、わざとそういう役ばかり演じたいって思ったなら、別だけど。
彼が、自分の商品価値を知っていて、
その上で、ヒーロー役を選んで演じているなら、それはそれでいいんじゃないかと、思ったんだ。
とことん、ヒーローになれば、いいんだよ。
ブルース・ウィリスも真っ青なくらいにね。
そこまでやってくれたら、もう誰も何も言う必要ないでしょう。
それこそ、伝説にもなれるかもよ。
それはそれで、もっと若いうちに、いろんな役を演じておけば良かった、なんて思うのかもしれないけど。
今のところ、彼のポジションを奪えるだけの人材は、まだいない気がする。
彼、自分をカッコ良く見せる方法、知ってるもん。
商品としての木村拓哉を知ってるって言っても、いいのかも。
テレビに出て、常に商品でいるのは、大変かもしれないけど、それを選んだのは、ほかならぬ、自分だもんね。
最後まで、貫き通して欲しいよ。
分かってくれているとは思うけど、
ここで書いているのは、あくまでもテレビで見る木村拓哉のイメージだから。
あしからず。
これからの木村君には、もう一段階、上のものを、期待してますよ!


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堀越ヨッシー

..羨ましいぞ!坂東三津五郎、近藤サトの次は壇れいかッ!(苦笑)
...という訳で、LICCAさん、こんにちは。今回はいつにも増して長編大作ですね!、読み応えあり!です(笑)。
映画評もさることながら、LICCAさんの“木村拓哉評”を興味深く読ませて頂きました。よく「木村拓哉は、何を演じても“木村拓哉そのもの”だ」という話を耳にしますが、LICCAさんも仰ってたようにそれが木村拓哉の役回りなんですよね。木村拓哉にロバート・デ・ニーロ的なものを求めるのは間違ってるし、彼のスタイル..あれはあれで正解なんだと思います。あとは受け取る側がどう解釈するかの問題だけですね。因みにオイラはそれが苦手なので見には行きませんでしたが(苦笑)。オイラにとって時代劇はある意味ファンタジーな世界なので、そこに現代の木村拓哉の顔がチラチラ垣間見えるのは、結構辛いんですよね。確か映画の冒頭だったと思いますが、川縁にいる子供に新之丞がいたずらをするシーンがあるでしょ?、あのシーンの新之丞がまんま“木村拓哉”なんですよね。芝居じゃなくて素のまんま...こういうのが苦手なんですよ。
でも、木村拓哉さんがかっこいいのは紛れも無い事実。カリスマ性で言ったら織田裕二なんかよりはるかに好きですね、オイラは。LICCAさんが仰ってたようにこれからもヒーロー像を貫き通して欲しいですね!。
注...普段はキムタク呼ばわりしているオイラですが、LICCAさんが嫌いとのことで自粛しました(苦笑)。
by 堀越ヨッシー (2007-01-31 08:01) 

Catcat44

お気遣い、ありがとうございます。スミマセン、ワガママで・・・。
これ、仕上げるのに、2時間どころじゃなかったですよ。時間かかりすぎですよね(笑)
現代人の顔は、特にイケメンと呼ばれるような人の顔は、ヅラや時代劇には、合わないですね。
ヅラにかぶられちゃってるみたいに見えますから。
私は、里見浩太朗とか中村吉衛門とかが時代劇ではカッコイイと思っているので、若い人で、ヒットな人は、出会えてないと思います。
真田広之とか渡辺謙とかは、いい感じですけどね。それでも、40代50代・・・
木村君は、9月にはドラマでもヒットした、検事役の「ヒーロー」が映画化されます。
こういう役は、本当に似合いますね。彼。ある意味、彼にとっても、得意技なのだと思いますし。
またか、と思っても、結局見ちゃうのですから、やっぱり彼の勝ち、なのでしょうね。
あ、でも、キャラクターでいったら、青島刑事の方が、一枚上手だと思います。あれは、番組的に、成功でしたからね。
木村君には、まだそういう役、ないよなぁ~。
by Catcat44 (2007-01-31 21:41) 

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