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父親の存在、責任 【アンダー・ブルー】 [映画日記<2006年>]

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1986年アメリカのTV映画。
まだ22歳のキアヌ・リーヴスが、物語をひっぱる役で、なかなかの好演をしている。

物語は、アメリカのよくある家族の物語。
父と母、長男、長女、次男(キアヌ・リーヴス)、次女の6人家族。
父親は、自らホームセンターのような店舗を経営しているが、アル中であった。
しかし、家族は、その事実を目の前で見ながらも、誰もその事実を認めようとはしなかった。
誰も声に出して、父がアル中である事を認めていなかった。
その父親に振り回され、次第に壊れていく家族を描いた物語。

まず、怖いと思ったのは、誰が見てもアル中の父親を、家族達は、それでも慕い、アル中つまり病気である事を認めていない事だ。
声にだして言ってしまったら、まるでもろいガラスが砕けてしまうのを恐れているみたいに、誰も事実にふれようとしていない。
その為に、家族達は、心のバランスを失っている。
昔は寛大で、絵に書いたような一家の大黒柱であったであろう父親。
しかし今は、アルコールが切れる事はなく、家族ももう、止める事を諦めている。
自己中心的な主張を大声でわめきちらし、仕事もさぼり酒びたりの毎日だ。
一方、妻は、大事で大事で仕方がない夫、最愛の夫を、今でも盲目的に愛していた。
酒を飲むのも、リラックスの為。
仕事のしすぎで、ストレスから飲むのだと、信じていた。
というより、そう信じなければ、彼女自身が壊れてしまいそうにみえる。
長男は、とっくに家を出ていた。
コメディアンの長男は、家族達にも皮肉たっぷりに話すが、家族と距離をおいている為か、一番客観的に家族を見ているのは、この長男で間違いない。
家族達が内包している問題にも、とっくに気付いている様子だ。
長女は、結婚して家を離れていたが、夫とはあまり上手くいっていなかった。
父親や母親を大事にしているが、夫との不仲や、家族が抱える問題に向き合えず、仕事に逃げていた。
一生懸命働いていれば、そういった問題を忘れられる・・・そう考えていたのかもしれない。
頭痛薬が、彼女の見方だ。
次男は、父親の店を手伝っていた。
酒を飲むために、仕事がおろそかになる父親の代わりに、客からのクレームを聞き、父親を捜しにいく。
酔った父に、どんなに罵倒されようと、その家族を捨てられずにいた。
がしかし、どこにも逃げ道はなく、彼もまた酒に逃げるのだった。
次女はまだハイスクールの生徒だ。
美術に才能があり、大学からの奨学金も受けられるが、その事を両親に話せないでいた。
父には、会計士になり、店を手伝うものと、決められている。
母はその事には、全く聞く耳を持っていなかった。
家族の前では、最も優等生の次女だが、本当は美術の世界に進みたくて仕方がなかったのだ。

そんなおり、ついに父親が倒れる。
もちろん原因は酒だ。
次に飲んだら、命の保障はない。
そう医者に宣告されても、家族達は、まだその事実を受け入れられないでいた。
長女は、医者すら信じていない。
取り乱すが、夫が深刻な状態だと、どうしても受けいれられない妻。
家族全員が、父の元に集まる。
しかし、この病んだ家族は、みんなが集まれば集まるほど、口論がたえず、道の先は見えない。
病床にいながらも、好き勝手を言う父。
容態が安定すれば、酒を欲しがる始末。
家族が気付いた時には、彼は酒を求めて、病院を抜け出していた。

父親の奔放具合が、すごいね。
昔かたぎの考え方、父が家庭の一番上だと、信じて疑わない。
まるで昔の日本のようだよ。
それで年中酔っているのだから、手に負えない。
はっきり言って、イライラする。この父親。
多分、私の父親がかぶるから余計だと思うけど。
事実に盲目的な母親にもイラつく。
どこか醒めている長男にも。
ヒステリックな長女にも。
なかなか自己主張できない次女にも。
逃げたくても逃げられない次男が、一番感情移入できる人物かもしれない。
キアヌが、その微妙な心情を、上手く演じているから、とてもリアリティがあって良いよ。
病室では酒を与えず、結局、病室を逃げだした父が、店のオフィスで酒を飲み、死んでいるのを発見して、酒を与えなかった自分を攻める姿が、痛々しいんだ。
寝ているものだと揺り起こし、死んでいるのに気付く場面は、キアヌの熱演が光っているよ。
問題山積みの父親が死んで、この一家も、呪いから逃れられるかと思えば、そうでもないんだな。
つまり長い事、心の本音を家族で話せないでいたこの家族達は、どこかちぐはぐで、大事な部分がちっとも見えてこないんだ。
それでも、問題を起こしながらも、少しずつ話せるようになる家族が、少しだけ前に進んでいく様子が見られて、唯一の救いなんだろうね。
夫がいなくなって、やっと自分の自我に気付いたような母親。
父から認められないのを苦に、一時は自殺未遂まで起こした長女は、夫とは別れるかもしれない。
次女は、ついに大学進学の夢を、母親に話す。
それを受け入れる母。
次男は、父親の影を追っていた、自分の存在を長男に打ち明ける。
話せる事が、第一歩なんだと、長男は次男に、言ってきかせるのだった。
あぁ、この家族に、やっと少しだけ、光が見えた気がするよ。

すごくシリアスで、難しい問題を扱っていて、それでも人物の個性がしっかり描かれていて、TV映画というジャンルでは、なかなかの秀逸作品ではないかな。
物語の話し手は長男だが、間違いなく物語をひっぱっていく役割は、次男だ。
キアヌはその役割を、想像以上に、上手く演じていると思う。
この人、アクションもいいけど、やっぱりこういうナイーブな役が、似合うよ。
ここで扱っている問題は、今でも世の中にある問題の、難しいポジションを担っているよね。
アメリカでの飲酒は、重要な国内問題だろうけど、決して、自分とも関係ない話ではないよ。
私の父親も、この父親と似たタイプだから。
今以上、飲めば、きっとこうなる気がするよ。
それを止めるは、やはり家族の責任なんだろうね。
この家族も、その責任があったのに、誰もその責任を全うできなかったのだ。
その責任は大きいよ。
本人の意思の問題も含めて、家族の問題は、奥が深いよ。
これは反面教師的な、教訓の物語で、強烈なヒューマン・ドラマである事は、間違いないよね。

アンダー・ブルー

アンダー・ブルー

  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 1995/05/26
  • メディア: ビデオ


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