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自己犠牲と誇り 【ジャスティス】 [映画日記<2006年>]

「ジャスティス」をレンタル&視聴。

これは、ちょっと変わった環境下での、法廷ものなのかなぁ。
最終目的は違うのだけど、そういったテイストもあるって事か。
戦争もので、法廷もので、人種差別問題もあって、“誇り”を懸けたヒーローもの。
盛りだくさんだね。

第二次世界大戦下。
ドイツのアメリカ兵捕虜の収容所内。
ドイツ軍からの酷い尋問の末、新入りの捕虜として連れてこられたハート中尉(コリン・ファレル)。
父親の地位のおかげで、後方の司令部にいたハート中尉は、上官の送迎途中に襲われ、捕虜となったが、前線は全く知らないロースクール生のボンボン育ち。
収容所内を仕切るアメリカ軍捕虜の上官は、マクナマス大佐(ブルース・ウィリス)。
翌日、空軍の黒人少尉二人が捕虜として加わった事から、収容所内は人種問題を抱える事となる。
黒人白人の対立ムードが高まる中、黒人少尉一人が武器携帯でドイツ兵に射殺されたのをキッカケに、黒人を徹底的に嫌う白人兵が殺され、もう一人の黒人少尉が犯人として捕らえられる。
裁判を申請するマクナマス大佐は、黒人少尉の弁護人に、ハート中尉を指名する。
完全に不利な状況で、ハート中尉はなんとか裁判に勝とうと、あれこれ努力を始めるが、
事態はそんなハート中尉のあずかり知らぬところで、水面下で、しかし着実に進んでいた。
果たして、マクナマス大佐の真意とは、冤罪の汚名を着せられた黒人少尉の裁判の行方は、水面下で進んでいる計画とは、ハート中尉の戦争は、これから始まる・・・

原題は「Hart's War」
「ハート中尉の戦争」という意味。
前線も知らず、それでも将校で、訳の分からないまま捕虜となってしまったハート中尉の、個人的な戦争、そういう意味合いがあるのだよね。
これは映画を見ていくと、分かるよ。

知らなかったのだけど、ドイツ軍の収容所内の捕虜なのに、ちゃんとアメリカ兵の間でも、命令系統がそのまま生きているのだね。
上官、下士官、それ以下と、地位でしっかり上下関係が継続されているのには、驚いた。
多分、捕虜の数が数千人単位と多いし、そうじゃないと統率がしきれないし、捕虜とはいえ、上官は上官、そういう事か。

もう一つ、収容所内の人種差別は、驚き。
時代が古いとはいえ、アメリカの人種差別は、救いようがないよね。
戦争捕虜で、自分達の命でさえ、ドイツ軍の手の内にあるのにも関わらず、まだ黒人を差別するかぁ、と思って。
こればっかりは、ちっとも理解できん。
白人、アーリア人から見れば、モンゴロイドもカラーだし。
生まれ育った環境の違いだけは、いかんともしがたいなぁ。

この作品、非常にテーマが多い。
表立った本筋は、人種差別をテーマにした、裁判なのだけど。
それも、収容所内という特別な環境下でのね。
でも、それだけを見てしまうと、マクナマス大佐の行動が、非常に不審。
どっちの味方なのか、どうしたいのか、彼は善悪どちらの人なのか、分かりづらい。
せっかく正義に目覚めて、黒人少尉の弁護に力をいれるハート中尉なのだけど、マクナマス大佐は、それを邪魔しようとしているみたいに見える。
んじゃ、差別容認派なのかといえば、どうもそうじゃなさそう。
というより、うがった見方だけど、あくまで主役のマクナマス大佐が、ヒーローを演じさせたら右に出るものはいないであろうブルース・ウィリスが演じる男が、そんなコスイ人物じゃないだろうと、勝手に想像して見ているものね。
それに、マクナマス大佐の存在感が、もうありすぎで、捕虜にも関わらず、堂々とした立ち姿にしても、小者には見えないよ。
立派な人物に見えるもの。
でも、ある事実、水面下で着々と動いているある計画が知れると、マクナマス大佐の言動も、そうするしかないのか、と納得できるかな。
あくまでハート中尉の視線で描かれているから、その計画が知れるまでが長く、ちょっとイライラさせられるね。

やがてハート中尉は、知る事となる。
マクナマス大佐が、密かに計画しているのは、収容所からの、脱走計画。
脱走というか、破壊工作だな。
収容所の目の前にある工場。
靴工場と思わせているのは、実は弾薬工場。
それを破壊したかったのだね。大佐は。
大佐自身、骨まで軍人。
4代続く士官学校出身の将校一家で、大佐は、前線で戦っていたかった訳だ。
捕虜として何もできない自分が不甲斐なく、何か自分なりに、アメリカの為に戦いたかったのだよ。
それが、大規模な脱走計画につながるのだね。
ハート中尉は、それを知らなかった訳だけど、他の捕虜達は知っていて、みな手を貸していた訳だ。
でも、その脱走用のトンネルを掘っている上の劇場が、捕虜が増える事によって、使えなくなる事が分かると、マクナマス大佐は慌てる。
殺された白人は、ドイツ兵と裏で取引していて、脱走計画をリークする恐れがあると、マクナマス大佐自ら、手にかけていた。
黒人少尉が、このままいけば、確実に処刑されるだろう事は、マクナマス大佐には容易に予想できたけど、それもトンネルと脱走計画の為に、必要な犠牲だと、腹をくくっていた。
黒人少尉の裁判は、トンネルと脱走計画の為の大いなる茶番、時間かせぎが目的だった訳だ。
それを知ったハート中尉、黒人少尉、マクナマス大佐、この3人それぞれの立場と、理解と、心理は、この作品の核となるテーマにつながる。
“誇り”だね。
アメリカという国の為の犠牲、軍人の誇り、アメリカ人としての誇り、戦争の正義。
そういうものに突き動かされたマクナマス大佐の決断は、分かりづらいが、理解はできる。
良くできたもので、黒人少尉も、国の為なら、犠牲になれる。
彼も黒人という、どうしようもない壁を抱えていても、国を思う気持ちは、人一倍持っていて、国の為に、自分の誇りの為に、犠牲になっても良いと、思うのだよね。
ハート中尉も、そのあたりは分かりが良く、マクナマス大佐の計画も、黒人少尉の犠牲も理解した上で、殺人の罪を、自ら被ろうとする。
それが、マクナマス大佐の為であり、しいては、アメリカの為と、これまた腹をくくるのだよ。
できすぎでしょうね。
でもこれが、第二次世界大戦中の、しかもドイツの捕虜収容所の話となると、信憑性もでてくるってもんだ。

テーマを盛り込みすぎていて、散漫な印象は拭えない。
なんというか、戦争独特の正義というか、軍人の誇りというか、特別な環境という事を忘れちゃいかんね。
それでも、マクナマス大佐の誇りと犠牲は、ぐっときてしまったよ。
脱走と破壊工作の計画は、マクナマス大佐の目論み通り、成功する。
それはドイツ人将校も認める。
が、そのせいで、脱走計画に関わった、元より裁判に関わった米兵達が処刑されそうになると、そこへマクナマス大佐が戻ってくる。
自分一人の命で、他のみなを助けて欲しいと、ドイツ人将校に申し出るのだよ。
予想的中。
やはりそうくるかぁ、と思いつつも、マクナマス大佐の威風堂々とした姿が、とてもカッコ良いのだな。
自己犠牲の精神、誇りを守る為の死。
なんか武士道みたいだね。

ドイツの収容所というと、どうしてもユダヤ人へのホロコーストのイメージしかないけど、確かに捕虜は、各国様々だったろうね。
とくに兵士ともなればね。
ホロコーストに関しては、「シンドラーのリスト」で号泣した私だけど、それに比べれば、これは全然甘い収容所生活だよ。
軍人としての地位と、最低限の誇りは持てる訳だし。
“誇り”という共通テーマが、作品の中にあるのだけど、やはりもう少しテーマを絞った方が、分かりやすかっただろうね。
戦争だけでも、人種問題だけでも、一つの映画が撮れるのだからね。
「ジャスティス」正義というより、やはりハート中尉の個人的な戦争だよな。
前線で命を懸ける兵士に、収容所で誇りの為に命を懸ける兵士。
どちらがどうというのではなく、どちらも戦争だという事だね。
考えさせられる事は、きちんとたくさん含んでいる作品だよ。
後で知ったけど、ついこの間見た「オーロラの彼方に」と同じ監督さんだったわ。
コリン・ファレルはともかく、ブルース・ウィリスに、警察官だとか軍人だとか、上に立つ立場の人間の役を演じさせたら、やたら似合うよね。
彼にはヒーローがお似合いだよ。
収容所のセットなんかは、かなり当時に忠実に作ってあるようだから、ホロコーストだけじゃない、ドイツの収容所を知る事ができたよね。
エンターテイメントの枠から出るような作品ではないから、気楽に見る方が、良いと思うわ。

ジャスティス デラックス版

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2004/06/25
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おまけ

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Catcat44

>ヨッシーさん、ポチッとniceありがとうございます!
by Catcat44 (2006-10-23 21:44) 

堀越ヨッシー

...すみません、ナイスだけで。
こちらにもコメントしようと思った事があったんですけど、更に長くなりそうだったので自重しちゃいました(苦笑)。
by 堀越ヨッシー (2006-10-24 07:41) 

Catcat44

いえいえ(笑)
niceだけでもありがたいですよ。
こちらも都合で、まとめ書きになっちゃってますので、あまり気にしないで下さいね。
by Catcat44 (2006-10-24 21:16) 

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