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伝統芸能で、吉本新喜劇 【犬神家の一族】 [映画日記<2006年>]

「犬神家の一族」を見たよ!

市川崑監督の、セルフリメイク。
オリジナル版は、1976年公開。
長く生きていると、こういう事もできちゃうんだね。すごい。

昭和22年。
東京の私立探偵、金田一耕助(石坂浩二)の元に、信州は那須から依頼が届く。
犬神財閥の創始者、犬神佐兵衛(仲代達也)が死去。
彼の遺産をめぐり、何か悪い事が起きると予感した、遺言書を預かる法律事務所の若林からのものだった。
予感は的中する。
金田一と会う前に、若林が何者かによって殺害されると、
金田一は、同じ法律事務所の古舘弁護士(中村敦夫)と共に、遺言を発表する犬神家に同席する。
遺言の内容は、一族にとって、衝撃的なものだった。
犬神佐兵衛に正妻はおらず、みな違う女に産ませた娘が3人、松子(富士純子)、竹子(松坂慶子)、梅子(万田久子)がいた。
が、しかし、3人の名は一切触れず、
財産の全ては、佐兵衛の恩人の孫、野々村珠世(松嶋菜々子)が、佐兵衛の3人の孫で、松子、竹子、梅子それぞれの長男、佐清(尾上菊之助)、佐武(葛山信吾)、佐智(池内万作)のうち一人と結婚を条件に、全て相続するというものだった。
その資産は、計り知れず。
やがて、犬神家と、珠世の周辺で、血なまぐさい事件が次々起こる。
果たして、犯人は誰か・・・?
金田一耕助は、事件を解決できるのか・・・

1976年版は、後のテレビで見た記憶があるのだけど、
映像が古く、しかも小学生だった私には、あの不気味なマスクをした佐清がどうしても怖くて、最後まで見れなかった記憶がある。
ちゃんと見れたのは、もっと後の事で、誰が金田一耕助を演じたドラマか忘れちゃったけど、とにかく一度は、「犬神家の一族」を見ている訳だ。
なので、私的には、犯人も知っているし、結末も知っている状態での鑑賞って事になる。
なのだけど、ね、それを分かってても、見に行きたいと思ったんだ。

まず、キャストがすごいよね。
主人公の金田一耕助を演じるのは、石坂浩二。
なんと、30年前の金田一を演じた張本人。
今はもう60歳すぎた石坂氏が、また同じ役を演じている事自体に、興味があったんだ。
水戸黄門すら演じた初老の俳優が、金田一ねぇ・・・気になるっしょ?
しかも金田一耕助は、よく走る。下駄で走る。
石坂氏、頑張ってたよ。ちゃんと走ってたもん。

松子、竹子、梅子を演じた3人の女優さんも、大御所ぞろい。
珠世には松嶋菜々子だし、那須ホテルの女中はるは深田恭子だし、
加藤武も等々力刑事役で「よし、分かった」ってやってるし、
三谷幸喜やら、林家喜久蔵やら、中村玉緒やら、
とにかく贅沢なキャストなのは、偏に、市川監督の人徳っちゅー事かな。

横溝正史の世界観といえば、
田舎の旧家で起こる、血なまぐさいお家騒動や、猟奇殺人、愛憎劇が中心。
この世界観は、大事だよ。特に「犬神家の一族」はね。
いかにも、終戦直後の日本って感じが、ぷんぷん匂いたつでしょう。
日本家屋は基本的に薄暗くて、あの独特な感じで、障子とか襖とか床の間とか、気味悪いでしょう。
しかも、人間関係が、相関図を書かなけりゃ分からんほどに複雑で、
恨み辛みがギジギシしてるしね。
それに遺産相続が絡んでいるのだから、パーフェクトだよね。
ドラマでなくて、映画、しかも監督のおかげでというか、とにかく予算があったのか、スタッフが丁寧だったのか、衣装、美術、セット、ロケと、粗がなくて良かったよ。本当に。
どうもドラマの金田一は、キレイすぎる気がするからさ。
しかも昭和20年代初頭の町並みやら、小道具やら、本物らしく見せるには、やっぱり手間がかかるだろうしね。
そういう点では、あまり障害はなかったんじゃないかな。
よれよれの着物を着た金田一は、ぼさぼさの頭からフケが落ちても、違和感ないよ。
広い畳敷きの部屋に、佐兵衛の遺影を背に、
一族がずらりと並ぶ光景には、ぞぞっとくるのもがあったよ。
あの家長制度というか、人物の並びとか、そういう日本の伝統的な習慣って、外国人には理解できないんだろうなぁ、なんて思いながら見てたわ。

この映画、というか、金田一耕助シリーズが、伝統芸能で、すでに吉本新喜劇状態でしょう。
いわゆる“お約束”を楽しむ作品って事。
ある意味、007も同じ。
田舎の旧家も、金田一も等々力刑事も、“お約束”の産物だ。
でも、それが魅力の一部なのだよね。
かく言う私だって、それを楽しみにしているようなものだもん。

で、映画を見終わっての感想というか、出来はというと、
それほど感激するほどの事はなかったかなぁ・・・
よくできた作品だよ。
でも、それ以上ではなかった。
金田一の活躍が、いまいちはっきりしてなかったし、ちょっと全体的に、ぼやけた印象が残ったわ。
ま、そんなものなのかなぁ。
でもさ、分かってはいてもさ、いざスクリーンで、
佐清のマスク姿とか、菊人形の首と挿げ替えられた佐武の生首とか、
湖に突き刺さって、足が水面から伸びているあの映像を見たら、
そんなの全部ふっとんじゃうよね。
なに野暮な事言ってるんだよぉ! って、自分にダメ出しするわ。
“佐清”“青沼静馬”これは永遠に不滅っしょ。

一つ、佐兵衛の亡霊、松子の背後に浮かぶ佐兵衛の顔、これは怖かったねぇ。
松子は、佐兵衛の亡霊に操られるように、今回の殺人を犯した訳だけど、
よく考えると、松子は、何もしなければ、財産を手に入れる事ができたんだよね。
確かに、福岡の港で、顔に傷を負った佐清を、本当の佐清だと思ってしまった事が、全ての間違いなのかもしれないけど、
わざわざ殺して回らなくったって、本物の佐清と、野々村珠世は、本当に愛し合っていたのだから、
松子のした事は、勇み足以外、何ものでもないんだ。
佐清さえ本物であったなら、珠世は彼を選んでいたでしょうね。
最初から彼女は、ニセモノだと見抜いていたんだし。
そこが、この物語の、悲劇なポイントなんだよね。
悲しいねぇ。
確かに、松子たちが青沼親子にした事は、酷いことだけど、
母子の愛情がすれ違ってしまったばかりに、こういう結果になったのだからね。

こういう悲劇を解決するには、金田一耕助ってキャラは、どことなく軽くて、ふわふわしてて、憎めないキャラクターが、いい効果を上げているから、長続きする愛される作品になったのだと思うな。
自信たっぷりに推理を語る探偵だったら、まずこうはいかないよ。
今作だって、金田一と、ホテルの女中はるのやりとりなんて、漫才みたいだもん。
送別会を逃げだいちゃう彼は、カワイイかもしれない・・・ね。

石坂氏、いやぁ、年取ったね。
30年前の彼は、多分、正に、金田一耕助だったのだろうね。
2006年、石坂金田一は、うーん、ちょっと違和感アリかなぁ。
ギリでセーフから、ちょいアウトの間くらい。
そう思う。
でも、横溝正史の世界観を知らない方、若い方には、機会があったら、見て欲しいな。
今の邦画界、どうもお涙ものの恋愛映画が、氾濫ぎみだと思うんだ。
ま、簡単に撮れるし、客も呼べるんだろうから、それはそれでいいんだけどね。
でも、佐清のマスク姿が夢にでそうとか、こういう伝統芸能みたいな映画も、いいぞぉ~。
そう思う。


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へべぺん

はじめまして、こんにちわ。
私もスケキヨ君を見に行こうと思っていたのですが、忘れてました、、、。
お約束とわかっていてもついつい
見てしてしまうものってありますよね~。
湖のシーンが楽しみです。
by へべぺん (2006-12-26 00:04) 

Catcat44

へべぺんさん、こんばんわ!
コメント&niceをありがとうございます。
あの湖のシーンは、多分一番楽しみにしていましたよ、私も。
思わずニヤけてしまったくらいです。
是非、見てきて下さいね~!!
by Catcat44 (2006-12-26 01:11) 

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