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父子、善悪 【ザ・ロード】 [映画日記<2010年>]

「ザ・ロード」を見たよ!

天変地異か神の怒りか。
大地は地鳴りのうなりをあげ続け、植物は枯れはて、動物は死に絶え、太陽は分厚い雲に隠され大地は凍りつき、文明は崩壊した。
それから10数年。
名もない一組みの父子が、当てのない旅を続ける。
ただ、少しでも暖かい南へ向かって。
父(ヴィゴ・モーテンセン)は全霊をかけて息子を守り、息子(コディ・スミット=マクフィー)はそんな父親を寄りどころとした。
食料も水もない、希望から見放された地で、人を食う野蛮人から逃げ続けながら、父は息子に“人の善”を説く。
心に灯った火を、未来への希望を、息子に託すように、父は息子に善悪を教え込む。
やがて、父が息絶えた時、息子の心に“善の火”が灯っているように。

いやー、とても地味な作品なのに、すごくしんどかったわ。
これは、2006年に発売された小説が原作なのだそうだ。
賞を取ったのも納得だな。
終末の世界を描きながら、親と子、善と悪を問い続ける、深い作品だと思う。

主人公の父も、その子も、名がない。
これはエンドロールで気づいた事。
そういえば、名のるシーンはなかった。
いや、あったのだけど、あれは父子が出会った老人の名だったか、父がたまたま思いついた名だったか、もう定かでなくなってしまった。
それがイーライだったのは、狙ったのかな。

この作品は、とにかくリアリティーを求めたのだな、というのが分かる。
最初、見ていて何がそんなに不安にさせるのか、気づかなかった。
でもそれが、徹底したリアリティーだと気づいた時に、うわっと思った。
よくよく調べてみると、ロケーションは全て実際の土地なのだそうだ。
崩壊した町も、ハイウェーも、枯れた木の立つ森も、全て本物。
妙な生活観もそう。
だから、あのなんとも表現しずらい不安感がずっと付きまとっていたのね。

それと、寒さね。
空がいつも曇っているのも、原因。
雨ばかりで、着ても着ても寒そう。
しかも主人公たちは、着るものもろくなものではない。
それに汚い。
あの汚さとカッコは、変な話、ホームレスそのままなのよ。
想像の範囲内で、きっとそうなるって思える。

動植物の死に絶えた世界で、もちろん食料など、前の世界の残りしかないから、当然奪い合いと、食人が存在する。
そんなめちゃくちゃな世界で、父は息子に人の常識と、善を、一生懸命覚えさせていくのね。

これは、ヴィゴ・モーテンセンだから、というのが大きいと思うのだけど、とにかく役に入り込むのが上手いヴィゴさん。
息子を愛する人の心を失っていない父親、という役柄は、もってこいだったんじゃないかしら。
それに、この父親は、強くもなんともない。
銃は持っているけど、まだ人を殺した事はなく、食人をする連中に怯え、逃げ、それこそ地を這いずるように生きてる。
そして、最後は、病気に勝てない。
ともすると、この父親が見せる息子に対する愛情は、過剰にも思えてくるし、わざとらしくも見えそうなのだけど、それが終末世界というシチュエーションには、全く違和感なく映る。
常識が常識でなくなった世界で、父親が見せる常識は、とてつもなく貴重なものに思えてくる。

それに、息子がまた真正直に素直ないい子に育ってね。
他人を信じてはいけない世界で、善を教え込まれた息子は、他人に冷たくする父親に反抗する。
それは、父親が息子に教えた大事な事だから、当然、息子は父親の教えの通りに生きているのだけど、油断から死が隣り合わせの世界で、息子の優しさは父としては面倒だったのではないかな。
でも結局、父親は息子に負けてしまうのね。

時に、父親が息子に、「お前は心配しなくていいから」と言うけど、これは、「お前は関わるな」という事で、息子をその問題から遠ざけているだけ。
だから息子は、何も心配するな、という父親に反抗して、自分も心配なんだよ、と声を荒げる。
息子を一人前として扱うには、やはり息子にも、直面している問題を、きちんと説明してあげる必要があるのだな、と、そのシーンを見ていて思ったわ。

静かに死んでいく父親、ヴィゴはなんだかとても穏やかに気分になった。
それまでは、食人連中の襲撃にビビッたり、食料になった人と遭遇した時のあのシーンは、マジで夢に出そうだと思ったから。
でも、浜辺で静かに死んでいくシーンは、なんだかとても穏やかだった。

その後、一人きりになった息子は、もう生きていけないじゃないかと心配になる。
でも、息子は覚悟を決めて父親の銃を持つと、息子は一人の男に出会う。
当然、息子はその男が善人か悪人か見極めようする。
それは子供の浅知恵で、上手くいかなそうだけど、この男が、唯一の希望なのだよね。
息子にとっても。
多分、この世界にとっても。

ラストシーン。
息子が出会った男は、妻と二人の子供と、なんとペットの犬まで連れていた。
これは幸せな一家の肖像。
そんな一家と出会った息子は、この世界での希望となったのだな、と思える。
でもそれがなければ、あまりに希望のない世界で、絶望だけを見せられてきた時間が、あまにしんどい。
一切派手さはなく、クライマックスもどんでん返しもなく、それじゃあんまりだもんね。

ツッコミどころが全くなかった訳でもないんだよね。
ま、原作があるからなんとも言えないけど、たった10数年で、あそこまでなるかな、というのはある。
食料の問題だって、人間全てが滅んだ訳じゃないから、もう少し、やりようがあったんじゃないかと思うし。
それに天変地異で人が死んだのでもなく、戦争でもなく、ようは飢餓と自殺で人が死んだのであけば、ここまで絶望の世界にはならないんじゃ、と思ってしまう。
たった10数年で、人が人を食うまでになるかな。
でも、なんだかんだで納得してしまうのは、映像のリアイティーなんだろうな。

メッセージ性の強い作品だけど、万人が見られる作品でないのが惜しいな。
もし本当にこうなったら、なんて思いながら見るのもなんだけど、そういうふうに思うのは悪い事じゃないから、子供が見たら強烈だろうね。
ま、大人が見ても強烈だから、子供には早いかな。

押し付けがましくないのが良いよね。
お勧めしずらいけど、余裕がある人は見るとなんとも言えない思いができるので、しかがでしようかね。
しんどいぞ。


タグ:ザ・ロード
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